一澤帆布の本家はダメだろう

日経ビジネスの「敗軍の将、兵を語る」に一澤帆布工業の現社長のインタビューが載っていた。

一澤帆布は京都の老舗の鞄屋。名前の通りキャンパス地を使った商品が売り物で、世間ではここのトートバックが定番アイテムの地位を確保している。
ところがここの創業者が亡くなった後、残された兄弟の中で内紛が勃発。先代の遺言状が二通も出てくるという異常事態に発展。裁判沙汰の末、それまでUFJ銀行に務めていた長男に有利な判決が下り、二十五年にわたり店を切り盛りしてきた三男が店から追い出されてしまった。
しかしこれで決着は着かなかった。三男は新たに一澤帆布加工所*1を設立。そして元の一澤帆布の職人、一澤帆布に布を卸していた仕入れ先も三男の方についてしまった。長男の手元には店と製造機械は残っているがこれだけではどうにもならない。裁判では勝ったが実業では負けた格好である。
というわけで長男の方が「敗軍の将、兵を語る」にご登場となったわけだが、もうこの人が凄い。インタビュー記事はメガトン級の発言が勢揃い。詳しくは日経ビジネスを読んで欲しいが、「家督は長男が継ぐもの」、この一言だけでこの長男氏の人となりを知るには十分だろう。ついでにもうひとつ、「布なんか金を払えば買えます」。一澤帆布のようなところの顧客は伝統とか創意工夫とか職人さんの手仕事といった金で買えないものを金で分けてもらおうというとても矛盾した意識に縛られているのだけど、そういうところが分かっていないんだろうなあ。後もう一つ、これは読んでのお楽しみだが、どうもこの人は婿養子という言葉を知らないらしい。
僕はこの一澤帆布の一件、典型的な兄弟の相剋、世間ではよくある話だと思っていたが、この記事を読んで考えが変わった。いや確かにこの人では職人も仕入れ先も逃げ出すだろう。
この争い、ネットでは既に決着がついている。googleで検索すると一澤帆布加工所の方がトップに来る。google:一澤帆布

追記

なぜこいつは語れるのか?

この人は自分の事を敗者だとは思っていません。語り口は勝者の語り口です。俺は裁判で勝ったのに弟が悪あがきをして困った事になっているというのがこの人の認識なのです。そして自分が勝者だという確信があるにも関わらず「敗軍の将、兵を語る」に出てしまうあたりがとてもおかしいのです。マスコミに語る機会に飢えていたのか、日経の記者にひっかけられたのか、たぶん両方でしょう。