アイ,ロボット

どうもちぐはぐな映画。
映画の出発点は、アシモフじゃなくて"Hardwired"というロボットが殺人事件の容疑者となる古典的な推理ものだったらしい。(Trivia for I, Robot)
そこにロボット三原則が出てくるのでアシモフにしちゃえということになったようだ。そういうわけで、この映画のアイザック・アシモフ「原作」というのは、「トータル・リコール」なんかのP.K.ディック「原作」というのと同じ意味だと考えた方がよい。
で、元の古典的な推理劇はハリウッドのお偉方のお気に召さなかったようで、三流アクション映画のカラーで塗りつぶされてしまったのである。そのくせ元の色があちこちに浮かび上がっているので全体としてチグハグな印象を受ける。
確かにシナリオの一部はかなり緻密で知的でSFマインドに溢れている。水におぼれた時のあの場面や主人公の義手が最後にああいう風に絡んでくるとは思わなかった。特に義手はロボット嫌いの刑事に対して、ロボットはあんたのもっと身近なところにいたんだというメッセージになる。素晴らしい。ラストシーンはロボットの人間支配からの解放という壮大なビジョンを予感させる。
でもそれ以外のところは三流アクションお馬鹿ものなのである。キャスティングからして離婚歴のある刑事と一見冷たい知的職業の女性の組み合わせってベタ過ぎやん。ロボットの襲撃も、手動の運転を誤った原因なんてどうすればそんな証拠ねつ造できるんだ、アレ?逆に言えば、あんな高度な証拠隠滅が出来るのならもっとシンプルなやり方で主人公をエリミネート出来るだろうに。
この辺のチグハグさは主人公の造形にも及んでいて、妙に知的なセリフを吐くわりには馬鹿刑事なのである。どうもあれかね。大衆受けを狙ったわかりやすい映画にしようという方針と、アイザック・アシモフ「原作」と言うところから来る知的な映画にしようという方針の妥協の産物なのかね、この映画。
ラスト30分はおもしろいんだけど、そこに行くまでが苦痛でした。


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