デイビット・フロムキンとゴルフボール

紀伊國屋書店での出来事。
おそらくは定年退職年代とおぼしき男性が歴史書のコーナーで熱心に立ち読みしている。僕もそのあたりに用事があるのだがでんと居座られて近寄れる雰囲気ではない。しょうがないのですぐ近くで本棚を物色し本の吟味を始める。で、まあ一分もしないうちに先のことはどうでも良くなる。
そのうち近くで関西弁らしき柔らかいイントネーションの会話が始まる。そちらを見ると、先ほどの男性が同年配くらいの女性と話している。どうやらご夫婦で来店されたようで、奥様の方は地蔵様と化したご主人を置き去りにして別の場所に行っていたようである。そしてやっとご主人を回収しに来たというところか。
話の内容から察するに、ご主人の方は何か面白そうな本を見付けたのだが高くて手が出せないらしい。1冊3800円の2冊組で約8000円だそうな。こういう話は僕も他人事ではないので興味が出てくる。ご主人曰く、本に8000円もだすのは馬鹿で、ゴルフボールでも買った方がましだそうな。まあ、分からなくもない。それにどうせ一回しか読まないんだそうな。ごもっとも。僕の家にも一回しか読んだことのない一冊数千円クラスの本がごろごろしている。これでもアマゾンで捌くという手を憶えたので大分減ったのではあるが。
ここで奥様が知恵を出す。そういう本は図書館に購入申請を出し、図書館で買ってもらってから借りればいいんだそうな。ご主人大喜び。「うまいこと考えるものやなあ」と奥様を誉める。僕も日本の書籍販売の現状を憂える者だが、この場合はやむを得まい。8000円なんて本は個人が所有するには高すぎる。公共の図書館で購入して大勢の人に無料で読んでもらうほうが良いであろう。その本が読むに値する本ならなおさらである。
ご主人、メモ帳と金張りとおぼしきボールペンを取り出しメモを始める。年配の方や関西の人に多いのだが、どうも近くに人がいる時は、書く内容を声に出さないとメモが取れない体質らしい。その本の著者名を読み上げていく。デイビット・フロムキン……デイビット・フロムキン!?そりゃあの本ですかい。平和を破滅させた和平―中東問題の始まり(1914‐1922)〈上〉?
この本については僕も以前、こんなことを書いているぞ。

このテーマを扱っているのが「平和を破滅させた和平―中東問題の始まり(1914‐1922)」なのだが、上下巻合わせて8000円というのがなあ。うーん。

ぶはははは。人はこの本を前にするとみんな同じ反応を示すのか。
なんてこったい。
もちろんまだ買っていません(笑)

[permalink][contents][page top]