The 有頂天ホテル(ネタバレあり)


THE 有頂天ホテル スペシャル・エディション [DVD]

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三谷幸喜、クソ意地が悪いなあと思った。いやこれは誉め言葉だ。
役所広司以下多数のキャストに最低ひとつはツボを作り、そこを巧みに突いて縦横無尽に人々を動かし次々と事件を起こしていく。将棋か囲碁の名人のような手腕には唖然とするより他はない。天才なんて言葉すら凡庸に見えてくる。おかげで上映中一瞬たりとも飽きることはなかった。
でも上映後、今ひとつすっきりしなかったのも確かだ。
外したところでの笑いを狙ったというのもあるだろうし*1、いくつかの筋の終わり方が後味が悪い*2というのもあるけど、最大の問題点はエピソードを通じて何も変わらなかった人達が多すぎるということだろう。
この手の映画っていうのは登場人物が様々な事件を経験して、人生観やら何やらがほんの少しでもいいからポジティブに変わっていくのをみて観客はカタルシスを得るのが基本だと思うのだけど「有頂天ホテル」はそのカタルシスが少し足りないと思う。
役所広司の副支配人はたぶん総支配人にはなれないだろうし、戸田恵子との間も縮まってはいないだろうし、もう1人の副支配人との関係もあのままだろう。
香取慎吾のベルボーイも来年の大晦日には帰ってしまいそうだし、ラストで桜チェリーが歌う場面、あそこは盛り上がるけど後で彼女やっぱり首になりそうだ。篠原涼子*3は相変わらずホテル周辺をうろつき廻る人生だろうし、佐藤浩市の国会議員。はっきり言って正義なんてどうもいい。でもあのママに手伝ってもらわないと靴下ひとつはけそうもない性格はほんのちょっとでもいいから変わって欲しかった。
結局誰も何も変わらない。人生少しは変わった人もいるにはいるけど、せいぜい迷いが晴れたとかそのくらいだ。
いやね。たかが大晦日に普段の大晦日の三倍忙しかったくらいで人生が変わるってことは本当はあり得ない。それ以前にいい歳をした大人がいまさら成長するわけもない。それはわかる。でもそれを期待するのがメルヘンなわけで、「有頂天ホテル」はそんなメルヘンをかなえてくれる物語ではなかった。
でも本当はこの映画に「夢がかなった」級のメルヘンを期待する僕が贅沢過ぎるのかもしれない。このご時世、ただの観客の立場ですら「迷いが晴れました」くらいの幸せで満足すべきなのか。

*1:観客全員で揃って爆笑できる場面がほとんどなかった

*2:伊東四朗などのおじさん連中。因果応報ではあるが

*3:あんまり好きじゃないけど、この映画では最高!