ニートって言うな!


「ニート」って言うな! (光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書)


たまたま同じ日に買った「人間の安全保障 (集英社新書)」でアマルティア・センが「人間の安全保障」という言葉も「流行」語になりそうだと皮肉っていた。そして「流行」語の先輩として「社会的排除」を例に挙げ、あるノルウェーの社会政策学者の言葉を引用している。

社会的排除」という言葉を「拾い上げた」人々が「いまでは理論的基盤の乏しい概念を探求するセミナーや会議の準備に忙しく走りまわって」います。そうしたあわただしい運命にならないように、人間の安全保障の概念について、その「理論的基盤」を固めておきましょう

人間の安全保障 (集英社新書)」、22ページ

そして本書『「ニート」って言うな! (光文社新書)』によると「ニート」はこの「社会的排除」から出てきた概念なのだそうだ。となると日本においてニートが「流行」語になり、「拾い上げた」人々に「理論的基盤」を欠いたままあわただしく乱用され、果ては「日本が直面している社会現象、すなわち、キレやすい子供、不登校、学級崩壊、引きこもり、家庭内暴力、突発的殺人、動物虐待、大人の幼児化、ロリコンなど反社会的変態性欲者の増大、オタク、ニートなどあらゆるネガティヴな現象*1と乱暴に決めつけられるようになったのは、避けがたい運命だったのかのかもしれない。
しかしそんな乱世を放ってはおけぬと立ち上がったのが本書の著者、本田由紀, 内藤朝雄, 後藤和智の三銃士である。まず先鋒を努めるのがアラミス、本田由紀氏で、定義も概念の曖昧なまま幻影のごとく膨れあがる一方の「ニート」像を正しい「理論的基盤」によって打ち払う。そしてアトス、内藤朝雄氏とポルトス、後藤和智氏が「日本が直面している社会現象、以下略」の如き、世を惑わす奇々怪々なニート言説を次から次からへと切り払い、焼き払っていくのだ。その有様はまさにデュマの描く三銃士の如く爽快である。
ただできればこの本、2冊に分けた方がよかったと思う。内藤、後藤両氏の担当分は「ニートを切り口とした俗流若者論批判」と呼ぶべき内容になっていて、これを「ニート」という言葉から連想される枠の中に押し込めるには惜しい。両氏担当分についてはもっと戦闘的なタイトルの本にして別に出した方がよかったのではないか。「「ニート」って言うな!」というタイトルでは「ゲーム脳」や「人間力」や「脳内汚染」と殴り合うリングネームにするにはインパクトが弱すぎる。