奇談


本年度ベストワン映画決定。
異議は認めない。

映画の舞台は1972年に設定されているが、この1972年という時代のへのこだわり方は半端じゃない。1972年という時代を再現するだけではなく1972年における映像世界の再現も狙っているのだろう。
主役の藤澤恵麻からしてあの時代の清楚な美人女優風だし、映画全体のテイストが1972年からやや時代は遡るが、ウルトラシリーズ、特にウルトラセブン風だ。最初に出てくる臨床心理学の教授の重々しい喋り方。途中に挿入される映画フィルムの宇宙人みたいな音声。夕焼け空見上げて「彼らと我々のどちらが幸せなのだろうか」と呟くラスト。
僕は映像フリークじゃないので「ウルトラセブン風」だと断言できるのはこのくらいだけど、どうもこの映画、そういう「あれだ!」という小ネタを見つけて楽しむ映画らしい。

以下おもしろかったポイント

  • 遠景に人がいて、近景つまり手前の方で落ち葉がカソコソ鳴ったり、小石がコロコロ転がったり、水がポタリポタリと音を立てるシーンがよくある。何のパロディだろう。
  • 住職役で講談師の一龍斎貞水が出てくるのだが、この人の語りというか表情が完璧に怪談調。見ていて笑い出しそうになった。
  • 役者は阿部寛は髪が長ければ完璧。あと神父さんが良かった。
  • 内容は原作にほぼ忠実。ただ前半部分はヒキに神隠しのエピソード(天神様?)を使っているが、こっちのエピソードは中途半端に終わるのが問題。天神様もネタにするなら、主人公と稗田礼次郎がいんへるのの手前でとうりゃんせをして、光の十字架に吸い込まれそうな子供を保護する場面も入れたらよかったんじゃないかと(笑)
  • 風呂のシーン。稗田先生はいい体をしている。
  • 川井憲次の音楽は結構はまっている。でもサントラが欲しいとは思わない。
  • いんへるので悶え苦しむ人々の姿は、暗黒舞踏のような感じも。先のウルトラセブンテイストもそうだけど、ひょっとして実相寺昭雄の線を狙っている?
  • パンフが濃い。年表。用語集。原作から二頁抜粋。映画の各場面と原作のコマの比較。諸星大二郎インタビュー。ファンを代表して京極夏彦氏らの推薦のお言葉などなど。その代わり普通の映画のパンフにあるべき要素がいくつも欠けているような。インタビューは主役の藤澤恵麻のものが1頁だけ。キャストの紹介は見開き2頁で収まっている。スタッフ紹介や撮影秘話はなし。


あいにく公開初日だというのに記録的な不入りだった。こりゃ2週間もたないだろうな。
でもいいのだ。監督で脚本も手がけた小松隆志氏は舞台挨拶で「妖怪ハンターで後2作は作りたい」と語ったそうだ。筋金入りの諸星ファンだ。
「奇談」はそんな諸星ファンの諸星ファンによる諸星ファンのための映画なのだ。一般人のウケなど最初からどうでもいいのだ。
だからこれでいいのだ。