仙台のソツのないブラジル人達

浦和やガンバ大阪から遅れること2週、他のJクラブよりも1週遅れで先週の土曜日にようやくベガルタ仙台の2006年シーズンは開幕した。そしてこの開幕戦においてベガルタ仙台が4-0で勝利を収めた。仙台が開幕戦で勝利するのは3年ぶりだ。また開幕を4点のスコアで勝利したのは今回が初めてらしい。
この勝利の立役者となったのが、今季から加入した3人のブラジル人選手である。FWボルジェスが2得点、FWロペスとMFチアゴネービス1得点づつとこの試合における全得点を彼らが叩きだした。このブラジル人選手達は来日がおくれたため、キャンプ中はフィジカル・コンデションが常に危ぶまれたが、そうした不安を吹き飛ばすような見事な活躍ぶりである。
いや、彼らが吹き飛ばしたのはフィジカル・コンデションだけではない。ブラジル人選手というものに対する不安を見事に吹き飛ばしてくれた。これは仙台だけに限った話ではないと思うが、ブラジル人選手というものはとかく色眼鏡で見られやすい。練習をサボる。すぐに不満を表に表す。チームワークを無視して個人プレーに走り、結局はラフプレイとシミュレーションでゲームを壊す。そしてイエローをもらうと審判に無用な抗議をしてさらにもう一枚余計なカードと、一試合余分な出場停止を食らうのである。
これはかなり誇張した事例だが、こう並べてみるとJリーグのサポーターなら誰もが即座に「あいつだ」と思い当たるブラジル人選手の一人や二人はいるだろう。いや下手をすると「あいつだ」の上に「うちの」がつくかも知れない。そのくらい我々はブラジル人選手というものに悩まされている。しかもそうした悩ましい選手ほどなぜか愛らしくも思えるというから、サポーターという人種はつくづく愛情が倒錯している。
ところが今季仙台に来たブラジル人選手達にはそうしたネガティブなブラジル人像があてはまらないらしい。僕は開幕戦はWebで結果を見ただけなので、彼らのプレーぶりを見てはいない。だからこれまたネット上の情報に頼るしかないのだが、管見した限りでは、彼らブラジル人選手達は、個人プレーにも走らず、シミュレーションもやらず、さらには審判にも抗議しなかったらしい。これらのフェアなプレイぶりについての証言はネット経由だから話半分で聞いておく必要があるかもしれない。しかしこの試合で仙台がイエローカードをもらわなかったということは公式記録でも証明出来る厳然たる事実である。カードコレクターが多いというのがベガルタ仙台の伝統であるということを考え合わせれば、これはやはり驚くべき現象であろう。まったくもって彼らにはそつがない。
しかもそつがないのは試合中のプレーだけではない。彼らにインタビューに対してもソツのない受け答えをしている。
「ブラジルでの活躍が認められて日本に来たのだから、やっていける自信はある。昨季は59試合で26点を取ったが、その記録を破るぐらいのゴールを決めたい。ゴール数は約束するべきものではないが、最大限の努力をする」(FWボルジェス
「最初に考えなければいけないのは、常に良いプレーをすること。良いプレーができれば、自然とゴールも生まれてくる。リベルタドーレス杯で得点王になれたのは、ゴールを意識せず自然にプレーできたからだ」(FWロペス)
 「ブラジルでは半年間で42試合プレーした経験があったが、それに耐えることができた。今度は、48試合を1年でやるのだから比較的楽だと考えている」(MFチアゴネービス)

彼らの言葉は自信に満ちあふれている。しかも大変にロジカルであり、それゆえか、彼らの言葉からなぜか謙虚な響きすら聞こえてくる。まさにプロフェショナルにふさわしい言葉使いである。
このプロフェショナルという言葉は彼らを仙台に誘ったブラジル人の新監督にもあてはまる形容である。ここ数年、仙台を指揮した監督達は、性格に圭角や隙が多い人達ばかりで、それゆえ試合後の監督コメントにはツッコミどころが満載な発言が多かったのだが、サンターナ監督の試合後のコメントはこれぞプロと呼ぶにふさわしいものであった。「徳島の質の高さを考えると、この4−0というのはちょっと、内容を考えれば点差が開きすぎたかなと思います。徳島は今後どんどんよくなっていくと思います。」などという優等生な発言がすらりと出るのは日本では他にマリノスの岡田監督くらいしかいないだろう。サンターナ監督、そして3人のブラジル人選手。このソツのない四人のブラジル人達はきっと我々仙台サポーターをJ1に連れて行ってくれるに違いない。
とはいうもののここまでソツのなさを見せつけられると逆に彼らにソツのあるブラジル人らしさを期待しまうのも確かなのだ。まあいい。J2は長い。後47試合もある。日本列島は東西南北にも長い。J2の愛媛と徳島がある四国では桜が咲いたが、札幌はまだ雪の中だ。それに審判だってひどい。設備や交通の便だって問題だ。幸い今季はJ1から3つものクラブがアクセスと設備のよいスタジアムごとJ2に落ちてきてくれているけど。
だから僕達はいつの日か激怒するサンターナや、余計なカードをもらうボルジェス、シミュレーションに走るロペス、途中で帰国してしまうチアゴネービスを見る事ができるかもしれない。もちろんサポーターとしての僕はそんなものは絶対見たくない。でもそんな光景を密かに期待している僕もいるのだ。