J1第43節 柏レイソル対東京ヴェルディ1969


J1、16位柏レイソルと17位東京ヴェルディ1969のサバイバルマッチ。
我がベガルタ仙台が出場する入れ替え戦の偵察がてら見に行きました。



お天気は昼頃までは晴れていたのに、試合開始時刻の午後3時頃にはすっかり曇り空、雲の薄いところから青い色が少し漏れているだけ。気温は15度以下だが、風はきつくなかった。収容人員1万5千の柏スタジアムはほぼ満員。ホーム柏スタッフのビブス配布作戦が功を奏してスタンドの9割はチームカラー、太陽の色、黄色で染まった。残りの一割、アウェイゴール裏のスタンドはヴェルディの緑で埋まっていた。


ゲームの主導権は立ち上がりからレイソルが掴んだ。前半2分に早くもシュートを放つ。コンパクトな守備でヴェルディにプレーする余地を与えず、カウンターからヴェルディゴールに迫る。そして前半18分、レイソルFW大谷がペナルティーエリア右からシュート、ボールはGKの手をかすめてネットに突き刺さる。ゴール、1−0。レイソル先制。


勝利以外には残留の道がないヴェルディは早くも厳しい立場に追い込まれたが、システムを3バックに組み替え、両サイド、特に相馬が果敢に攻め上がる。この勢いに押されたレイソル守備陣はゴール前に人垣を作り、ヴェルディの前線をサンドイッチにして押さえ込んだ。しかしこの策は少し裏目に出た。ゴール前に人を集めたため、サイドや中盤が手薄になり、そこをヴェルディにうまく使われてしまった。
不振とはいえ、さすがはヴェルディである。細かくパスを回し、レイソル守備陣を翻弄する。レイソルゴール前の人垣は次第に崩れ始めた。あちこちでマークがずれ、妙なところに危険なスペースができた。叩き込まれるクロスはなんとか弾いたものの、人が密集し過ぎているため、こぼれ球の処理にもたつき、ひやりとする場面があった。
またこの日のレイソル守備陣は積極的なプレーを見せたが、その反面、自分達がボールを持つととたんに臆病になった。素直にクリアすればいいところを、ボールを大事にし過ぎて、そこをヴェルディに狙われたのだ。中盤では自陣で無理にキープしようとしてボールを奪われピンチを招き、敵前線のプレスから逃げようとした最終ラインはあらぬ方向にボールを蹴り出し、相手にコーナーキックのチャンスを与える始末。
前半27分の最初のコーナーキックもそんなプレイが招いたもので、ヴェルディはこのチャンスをきっちりに決め同点に追いついた。そして前半39分、前と同じような形からヴェルディが二度目のコーナーキックを得た。


それにしてもスタンドの空気というのは現金なものだ。僕が観戦したバックスタンドはサポーターというには少しライトな人達が占めていたが、それでも試合開始前からピリピリとした戦闘的な気分が張りつめていた。だがレイソルが先制ゴールを上げると、あっさりと緊張が融けて、うちの馬鹿どもやっと安心させてくれたわい、と言わんばかりのアットホームな空気が流れ出した。軽口が叩かれ、ピッチ上の出来事を批評する余裕も出てきた。しかしヴェルディが同点に追いつくと、そんな空気はどこかに消えてしまい、みんな黙り込んでしまった。
そして二度目のコーナーキックの時、僕の周囲のレイソルサポ達はみな失点の予感に脅えた。すぐ近くで「さっきと同じじゃないか」という弱気な呟きが聞こえ、ボールが蹴られる瞬間、そこらじゅうの人達がで息を飲み、身をギュッと縮ませるのがはっきりわかった。幸いこのボールはなんとかクリアされ、スタンドのあちこちで安堵のため息が漏れた。


このあたりからレイソルも盛り返し、試合は一進一退の展開となった。この試合に賭ける選手達の闘争心は凄まじく、前半1分、最初の接触プレーで早くもヴェルディDF上村がピッチに倒れ込んだ。その後も激しい激突の度に倒れる選手が出て、担架と救護班がピッチの内外を何度も往復した。主審岡田正義は荒れたゲームを立て直そうと、何枚もイエローを出したが何の効果もなかった。選手達は明らかに退場のリスクを無視していた。主審を甘く見たのだ。J2降格のかかった大事な試合を、退場者を出してぶちこわしにする度胸はないと踏んだのだろう。事実この試合、前半だけで4枚、全部で10枚のイエローカードが出たが、これだけの警告が出たにもかかわらず、不思議な事に一人の退場者も出なかった。
コーナーキックとなるとゴール前の競り合いから、ボールが蹴られる前に倒れる選手が出て、柏サイドでヴェルディが得たコーナーキックは二度蹴り直しになった。ボールに対する執着心は一瞬たりとも途切れる事はなく、選手達はボールを拾い続け、パスを繋ぎ続けた。そのためロスタイムをかなり過ぎてもプレーがなかなか止まらず、主審は前半終了を告げる笛を吹きかねていた。見ている僕もこのまま前半が永遠に続くのではないかと思ったほどだ。この長いロスタイムの後、前半は1対1の同点で終わった。


ハーフタイムに入ると、空がさらに暗くなり、照明塔に明かりが点った。普段ならトイレその他の所用の時間だが、席を立つ人は少なかった。両チームのサポの心臓には悪いかもしれないが、単なる野次馬としては、後半もロスタイムの最後の一秒までまで緊迫した見応えのある試合になればいいと思った。


しかしそんな外野の勝手な期待は後半開始直後に打ち砕かれてしまう。僕がピッチから目を離して「後半開始」などとのんびりメモっている間に、レイソルFW矢野が得点を上げたのだ。さらに後半12分、もはや攻めるしかなくなったヴェルディの裏を突いて、レイソルが決定的な3点目を上げた。


この3点目の後、バックスタンドのレイソルサポ達はお気楽な観戦ムードに浸ってしまった。しかし両ゴール裏のサポ達は、得点経過などお構いなしに常に最高のボルテージで応援を続けた。
この日は試合開始前、コートがチェンジされたので、両チームのGKは後半、自分達のサポーターを背負ってプレイすることになった。サポーターにとっては味方守備陣と一心になってゴールを守る格好だ。ヴェルディのサポ達は3点目を取られた後も全力で応援を続けた。だがそんなヴェルディのサポの眼前に、レイソルのシュートはさらに容赦なく突き刺さっていった。守備的な選手を替えて全員攻撃に出たヴェルディ相手にレイソルは自陣に押し込まれたはしたが、反面、上がりすぎた相手の裏はカウンターに脆くなりすぎた。


僕も目の前でサポートするチームの降格を見届けたクチだが、僕の降格体験はこの日のヴェルディサポーターに比べればずっと天国に近い。僕の時もアウェイで勝たなければ降格が決まる状況だったが、先制されても後半同点に追いつき、そのスコアがロスタイムまで続いた。だから自分のチームの勝利の可能性をロスタイムの最後の一秒まで本当に信じる事が出来た。しかしこの日のヴェルディサポーターは点差が4対1、さらには5対1と開いても、勝利の可能性を信じて自分達のチームをサポートし続けねばならなかった。


それでもサッカーは試合終了のホイッスルが鳴るまで何が起こるかわからない。J2では前節11月23日、甲府が札幌相手にロスタイムで3点取るという大逆転劇を演じたばかりだ。J1でもこの日、広島のFW佐藤寿人ハットトリックを達成、劣勢だった試合を一人でひっくり返してしまった。
だがそんな奇跡はこの柏スタジアムでは起こらなかった。5点取られた後もヴェルディの選手達の足は止まらず、懸命に攻め立て、押し込んではいったが、完全に余裕を取り戻したレイソルの守備陣を崩す事は出来なかった。ロスタイムになってようやくPKという究極のチャンスが巡ってきたが、余裕しゃくしゃくで気勢を上げるレイソルゴール裏を前にしたキッカー、ワシントンの姿はとても小さく見えた。スタンドで誰かが「やりにくそうだな」と呟き、そして案の定、このPKは失敗に終わった。ロスタイムにはこれ以外事件らしい事件は起きず、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。スコアは5対1、17位ヴェルディと16位レイソルの勝ち点差は8に開き、最終節を待たずに東京ヴェルディ1969のJ2降格が決まった。


僕はこの試合、ヴェルディが勝利し、最終節でどちらもボロボロになり、一方仙台はこの日でJ2の3位を確定させて、最終戦は主力を休養出来るようになればいいと望んでいたが、この日、順位一つ上の清水エスパスルが勝ち点を上げたので、レイソルはよくも悪くも入れ替え戦への出場が確定した。一方J2では、3位仙台と4位甲府の両チームが共にホームでノックアウトされ、入れ替え戦枠を巡る争いは最終節までもつれ込んでしまった。最悪である。僕の期待とは逆に、レイソルの方に次節、入れ替え戦に備えてメンバーを落とす余裕が出てきた。まあいいさ。下手をすると彼らは次節アウェイの地で宿敵鹿島の胴上げを見る事になるだろう。
それにレイソルがヘタレているのは相変わらずらしい。前半、DF陣は明らかに焦っていたし、後半は攻撃陣がヘタレだした。清水戦の結果次第ではまだレイソルにも入れ替え戦回避の可能性があり、そのためには大量点が必要だったが、5点目を上げてからは攻撃陣はリスクを恐れ始めた。ドリブルして敵ペナルティエリアまで行った奴が、勝負から逃げてバックパスをしたのだ。このヘタレなプレイにはスタンドのレイソルサポからも罵声と失笑が飛んだ。どうも彼らは自働降格さえ回避出来ればよいというメンタリティの持ち主らしい。このヘタレっぷりならまた仙スタで5−2で捻るのも夢ではなかろう。いや今度は5−0かな。