落語のコンテキストスイッチが高速な件について

いやあ困りましたよ。今朝も電車がとてもとても混んで、文庫本も手に持てないって有様で。だからしかたなくお笑いに走ったのですよ。


もちろん僕がお笑いに走ったわけじゃなくて、iPodで落語を聞く事にしたのですね。さすがにイヤホンならノースペースで使えるってことで。今日、聞いたのは「湯屋番」、演ずるは柳屋三三師匠、提供はぽっどきゃすてぃんぐ落語でございます。昔は電車の中で笑えるメディアといえば「こちかめ」や「かってに改蔵」なんかのギャグマンガが載ってる週刊少年誌でしたが、Web2.0の時代はお笑いメディアもPodCastingです。これもひとつのメディアの交代劇なんでしょうかねえ。「爆笑2.0」。なんてね。


さて「湯屋番」、主役は勘当されて出入り職人の家に転がり込んだ若旦那。居候、勤労意欲0、昼まで寝ているという優雅な生活。
そんな若旦那でもとにかく働かなきゃという話になって、紹介された奉公先が銭湯でございます。そしてひょんなことから男の憧れ、番台へと上がった若旦那。でも真っ昼間から風呂に入る客は男ばかりで、女湯はからっぽだ。これじゃせっかく番台に上がった快、じゃなかった甲斐がない。膨れあがった期待の収まりどころが見つからない若旦那は、番台の上でいつのまにやら、湯屋の客の女の一人といい仲になったという設定の白昼夢にずぶずぶとのめり込んでいくという、まいどばかばかしいお話です。


で、この「湯屋番」ですけど、聞いているうちに若旦那の妄想がスロットル全開で暴走する後半部分は結構おもしろい構造をしているなあと思いました。

この後半部分は

  • 若旦那とわりない仲になった女の家という設定の妄想空間
  • 妄想全開で時々妙な事を口走る若旦那を男湯にいる熊さん八ちゃんな人達が見物するという現実空間

という二つの世界で構成されています。


そしてこの二つの世界が一人の落語家の語りという、一次元でストリーミングなメディアで表現されている。しかもこの語りの中で妄想世界と現実世界のコンテキストの切り替わりがとても軽くて早い。落語家が若旦那なり、男湯の客なりのセリフを一つ、ポンと口に出しただけで、世界がぱっと切り替わってしまう。世界を切り替える仕掛けは、ただの口調だけ。
これはほんと魔法だと思いました。さすが古典芸能。侮れないなあ。