続・仙台駅


JRの対応は合格点にはほど遠かった。情報の告知の体制がなっていない。乗客達は半ば放っておかれた。
情報を得るための手段は三つしかなかった。

  1. 「復旧の見通しは立っていません」という、たまーに流れるアナウンス
  2. 「復旧の見通しは立っていません」という、いつ見ても代わり映えのしない掲示
  3. 駅員を捕まえて聞く。でもやっぱり「復旧の見通しは立っていません」という返事が返ってくる。

この「復旧の見通しは立っていません」一点張りの返事がとても困った。とりあえず1時間かそこらで復旧しそうにないというのは雰囲気的に分かる。ではいつごろ復旧するのかというのが全く分からない。2時間後なのか、5時間後なのか、あるいは今日中には復旧しないのか。まったく見当が付かない。「15時45分より白石-福島間で架線の修理を開始しました」という妙にビビッドな情報は流れてくるのだが、そんなもん聞かされたって鉄道の運行手順に精通しているわけでもない人間にとっては何の参考にもならない。Winodowsのわけのわからないエラーメッセージと同じだ。そういうわけで「もう少ししたら復旧するかもしれない」という希望と「このまま待っていても無駄なんじゃないか」という不安に囚われて乗客達は駅周辺に張り付いていた。
こんな状況にはいつまでも付き合っては居られないので、デッドラインを7時に決め、この時刻を過ぎても復旧の見通しが立たないようなら今日の帰還はあきらめる事にした。そしてあっという間に7時が過ぎて、でもやっぱり復旧の見通しが立たないので今日の特急券を明日のものに差し替えてもらうためにみどりの窓口に直行し、長い行列の末尾に加わった。そのとたんいやーなアナウンスが流れてきた。


「指定席は明日の20時台まで満席です」


「この門をくぐる者、全ての望みを捨てよ」と聞こえた。こういうアナウンスだけは妙に手際がよい。
このアナウンスを何十回も聞かされた後、窓口にたどり着いた僕は、一応聞いてはみたが、想定内の返事が返ってきたので、仕方なく今日の指定席特急券を明日の自由席特急券に変更してもらった。払い戻された差額は710円。まあ晩飯代の足しにはなるか。
僕は帰省だからもう一晩実家に泊めてもらえばよい。だが駅の宿泊案内所の前にはこれまた長い行列が出来ていた。彼らにとって今日の宿代は痛い臨時出費になったに違いない。
僕も臨時出費をした。3760円。内訳は鮨上2500円。秋刀魚刺身680円。浦霞本醸造辛口580円。名目は憂さ晴らしである。
こうして昭和二十年の八月十五日と並んで長く語り継がれるに違いない、平成十七年の八月十六日という日は終わった。翌平成十七年八月十七日という日も語り継がれるに値しそうな予感がビンビンとした。