アレキサンダーとカエサル

追記
http://d.hatena.ne.jp/moleskin/20050207/p5に簡単なブックガイドあり。

本に行ったら歴史書のところにアレキサンダー大王のコーナーが出来ていた。
「なぜ今アレキサンダー?」と疑問に思ったのだが、コーナーのど真ん中に、歴史書の棚には場違いな「ぴあ」の映画ムック本がでんと置いてあって、その表紙にでかでかと載っているのが、オリバー・ストーンの大作、「アレキサンダー」なのだ。これで納得。便乗して書籍フェアをやっているのね。
でもこの映画、「ラジー賞 6部門ノミネート」なわけで。ライバルは「キャットウーマン」と「華氏911」。もちろん「華氏911」は作品賞や脚本賞ではなくて、俳優部門でノミネートされている。主演男優賞候補は大統領にも選出されたあのお方。
まあアレキサンダーYahooでの映画評を見る限りでは日本ではうまく騙せそうな感じがしないでもない。公式サイトによると「イギリス、イタリア、アイルランド、南米各国では初登場一位」だそうな。なんか肝心な国が一つ抜けていないような気がしないでもないが。
でもオリバーストーン如きにっていうのもあれだが、たかが3時間程度でアレキサンダー大王の生涯をまとめるのは無理だろう。しかも人間性を描くとか言って、ネット評によると変な方向に行っているらしい。
ちなみに映画の方の出来はともかく、アレキサンダー大王のコーナーにあった本の選出はなかなかよかった。
活字本は「アレクサンドロス大王東征記〈上〉―付インド誌 (岩波文庫)」を始めいろいろあるが、コミックもちゃんとある。安彦良和アレクサンドロス~世界帝国への夢~【第1巻】 (NHKスペシャル文明の道)

映画なんぞ見るよりはこっちの方が一万倍ましということになりそうだ。ああついでに星野之宣センセの「フビライ」(ISBN:4140054220)もよろしく。
もうひとつポイントが抑えてあったのが岩明均の「ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)」。

ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)

ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)

アレキサンダー大王の書記官で後にディアドイコイの1人になるエウメネスの物語である。やはりちゃんとわかっている人間がコーナーを作っているようだ。

映画の方に話を戻すと、「なぜ今アレキサンダー?」なのかというのは本当に疑問である。オチデントがオリエントを征服するなんて話はどう考えても目下進行中のイラク情勢に直結してしまう。この辺オリバー・ストーンはインタビューですっとぼけたことを書いて逃げているのだが、アレキサンダー大王の東征を政治的にではなく人間的に捉えてしまうあたりがオリバー・ストーンの限界なのか。
まともな歴史感覚を持った人間が今、史実を映画化するのなら、題材は「アレキサンダー大王」ではなく断然「ガリア戦記」だろう。

ガリア戦記 (講談社学術文庫)

ガリア戦記 (講談社学術文庫)

状況からして「内紛を利用しての介入」、「当初は短期戦でケリがつくと思われた戦争が長期化」、「部族的な社会をより近代的な社会へと取り込む目論見」とガリアとイラクの情勢は似すぎている。
それになにより、この戦争の勝者となったカエサルがローマを共和国から帝国へと造り替えて行くのである。今のアメリカでこれ映画化しないでどうするというのだ。
そんなわけで家に帰ってから「ガリア戦記 (講談社学術文庫)」をパラパラとめくってみたが、これが大失敗で、小林秀雄じゃないが、平行して読んでいる第一次大戦や現代の傭兵やランツクネヒト彰義隊の本(彰義隊遺聞)はもうどうでも良くなった。2000年以上前に書かれた歴史の本、それ自体が歴史の一部みたいな本が一番面白いというのはどういうことだ。歴史を描くということに関してはこの2000年間まったく進歩していないのか。それどころかひたすら退歩していてその末裔がラジー賞な映画なのか。だとすると事はかなり深刻である。