厳戒都市

先月、福岡旅行に行った時の話。
旅行といってもサッカーのアウェイ遠征で、メインディシュの試合以外は美味しかったというありがちな結末に終わったが、それはさておき、試合の前の日、時刻は午後一時頃。福岡の繁華街、天神のバス停を降りた直後のことである。
天神のメインストリートは銀座と雰囲気が似ていた。でも道の幅が倍はある。両側に並ぶ建物も銀座より一回りは大きいし一世代は新しそうだ。三越も天神のは銀座のよりずっと大きい。仙台にも三越はあるが、あいにくずっと古くて小さい。いやいかん。そりゃ三越では負けているし、楽天ソフトバンクではぶっちぎりで話にならない。だがベガルタ仙台アビスパ福岡に遅れをとってなるものかと見た目だけなら日本橋本店より立派そうな三越を前にアウェイな闘争心が湧いてきた。それにアップルストア天神も明日オープンだよな、リンゴのマークはどこかいなとギークな興味も湧いてくるという東京発仙台経由のお上りさんな気分でキョロキョロ見ながら歩いていると、前方から水色の制服を着たおっさんが僕の方につま先向けて歩いてくるのが見えた。どこかの警備員らしく、ピンと背筋を伸ばした歩き方から前職も恐らく制服商売と知れた。はて、何用?
ちょっと気分が冷えた。なぜか「テロ厳戒態勢中」という文字がぽっと浮かんだ。いや、なぜかも何も、今朝福岡空港で降りてからこっち、「テロ厳戒態勢中」と書かれたビラをあちこちで目にしていた。福岡駅前のバス停にもあったし、キャナルシティのバス停にもあったし、さっき降りたばかりの三越前のバス停にも貼ってある。これだけ見れば少しはピリピリした気分にもなる。でも街中をキョロキョロしているくらいで不審者ってことはないだろうし、ここは天下の往来で、それにあんな水色、所詮オレオレ制服だ。どうってことはないはずだ。
だからそのまままっすぐ歩いた。警備員もそのまま歩いてくる。そしてあと数歩で肩がぶつかるというあたりまで来た時、警備員は立ち止まり、何か黒い筒のようなものを僕の真横の空間にすっと差し出した。思わずつられてそっちを見た。
そこには学生風の二人連れがいた。どっちもジャンパー姿で、そのうち眼鏡をかけた方が「だめなんですが」と詫びるように言い、お辞儀をするように身を屈めた。そして右手の指に挟んだ煙草を黒い筒に素直に差し入れた。
なんのことはない。黒い筒は灰皿で、ただの路上喫煙の取り締まりだった。警備員の目当ては隣の規則を知らない路上喫煙者で僕ではなかったのだ。
僕の完全な過剰反応だったけど、世の中最近やたら目立つ制服が多すぎる。