田園都市線がちょっと凄かった

21日午前7時23分ごろ、東急田園都市線市が尾―つきみ野間の上下線で送電が止まり、一時全線がストップした。その後、渋谷―あざみ野間で折り返し運転を実施し、約1時間5分後に全線で運転を再開した。


これのおかげでちょっとひどい目にあった。
駅に着いた時から雰囲気が違う。改札口の手前で駅員が遅延証明書を配っている。もらった証明書の遅延時分のところを見ると60分の欄にチェックが入ってた。
あざみ野で折り返し運転ということだから、他の路線に浮気はせずに素直に田園都市線にのることにしたのだが、ホームに出て少し後悔した。
ちょうど入ってきた電車が超満員だったのだ。田園都市線はいつも急行なんかは超満員なのだが、今日は超満員の上に少し殺気立っている。この入ってきた電車は見送ることにした。いや乗ろうとしてもホームは人がいっぱいで今からじゃ乗れそうもないのだが。どうみても人がこれ以上乗れそうもないぎゅうぎゅう詰めの電車にホームに溢れる乗客がどんどん吸い込まれていくという大都会特有の摩訶不思議をしばし見物する。
ひょっとしてあの電車は人食い電車で、乗ってきた乗客を頭からバリバリ食べているからぎゅう詰めの電車でも人がゾロゾロと乗り込めるんじゃないかなどと少し馬鹿な事を考える。とにかくその人食い電車が発車して、ホームが少し片づいた後、僕は電車が食い残した人が作った列に適当に加わった。
でも次の電車も超満員だった。しかもこの電車、乗客が少ししか降りなかった。電車のドアのところは人が壁になっていて、しかも内部から圧力がかかっているせいか外側に盛り上がっている。こりゃ東急は諦めて小田急で行こうかとなど一瞬と迷ったが、突然怒濤の如く巻き起こった人の渦に僕は飲み込まれてしまった。人の濁流は電車のドアに向かって雪崩れ込み、気がついた時にはあの人の壁を突破して満員電車のかなり奥深いところに押し込まれていた。さっさと離脱しておけばよかったと思ったが、後悔先に立たず、ピシャリとドアが閉まり電車は発車してしまった。
車内は超高圧状態だった。従来比2倍の耐圧100kgfを実現したとかいう新型Let's Noteは田園都市線で圧力試験をしたらしいが、こんな状況ではLet's Noteといえども限界深度を超えた潜水艦のように圧壊してしまうに違いない。下は足の踏み場がない。他人の足を踏まない程度の隙間を確保するのがやっとだ。腕も押しつけられてくる他人の体にブロックされてまったく動かせない。当然本なんて読めない。今日は気温が低かったせいか汗くさい匂いはしなかったが、その代わり強い香水の香りでむせた。この香水にはほんと参った。痴漢対策で女性専用車を作ったんだからバランスを取るために禁香水車両も作って欲しいぞと本気で思った。
この極限状態で命綱になったのはiPod Nanoだ。今日のiPodは僕にとって深海に潜るダイバーが背中に背負った酸素ボンベに等しかった。口にくわえたマウスピースじゃなくて耳にささったイヤホンから流れてくるのは昨日iPodに入れたばかりのモダーン今夜のアルバム「愛しいリズム」。サンバのリズムを酸素代わりにしてなんとか正気を保った。
こんな状況だから車内アナウンスは「ご迷惑をおかけしました」と「深くお詫びします」を連呼した。しかし東急が「ご迷惑をおかけしました」と「深くお詫びします」を連呼するのはいつものことなのでこっちの心には何も響かない。しかも殊勝なことを言って上辺を取り繕う一方、女性専用車は今日はなしになりましたとか、渋谷に行く人は二子玉で大井町線に乗り換えて自由が丘経由で行けとか、この電車は行き先表示は押上行きだが、半蔵線内で行き先が変更になるかもしれませんなどとなかなか怖い事をおっしゃる。
幸い二子玉川でかなり人が降りたので、車内の超高圧状態はとりあえず「超」が取れた程度の高圧状態まで解消された。人を窒息させる香水の主もどこかにいってしまったようだ。そしていつものように前に電車が詰まっているのでいつものようにノロノロと電車は進んだ。
そして渋谷でいつものように人がどどっと乗り降りする頃には。なんとなく日常がもどって来ていた。徐行運転をする電車のなんとか文庫本を読める程度に隙間がある混雑振りが日常と呼べればの話だが。
いつもと違うのは電車の車内電光掲示板に表示される行き先表示が「各停押上行き」から「準急南栗橋行き」に変わったくらいか。
しかしひとつ問題があった。僕はいつも半蔵門止まりの電車に乗るのだ。半蔵門止まりだと半蔵門から先に行かない人達は乗らないから電車は少し空くのだ。そして終点半蔵門に着いたところで焦らず騒がずのんびり降りるのだが、こいつは南栗橋行き。埼玉県北葛飾郡という神奈川県民にとっては地の果てのようなところまで行くのだ。
だからいつものように半蔵門で人がゾロゾロ降りていった後でゆっくり降りようと思ったら電車はすぐに走り出してしまった。おかげで次の九段下の駅で下りに乗り換えて戻ってくる羽目になった。
おかげで会社には定時より30分遅れてついた。このうち何分かは僕の自己責任だが、東急から発行された遅延証明書は60分遅延ということになっているので何の問題もないのだ。
うーむ、せっかくだからもう30分、スタバでラテでも飲んで潰せば良かったかしら。