刺激を受けすぎた人々に贈るほのぼの癒し系コミック5冊

手元の漢字源電子版によると、「朿」の原字は、四方に鋭いトゲのでた姿を描いた象形文字で、「刺」とは「朿」に刀を加えたもの、刀でトゲのように刺すことである。
なんとも酷いことである。最近世の中では刺激を受ける本というのが流行っているようであるが、そんな恐ろしい本を5冊、いや25冊も読んでしまった人は、身も心も鉄の処女に抱きしめられたかのように、傷だらけになっているに違いない。
そんな傷だらけのあなたを癒してくれる、ほのぼの癒し系コミックを5冊紹介する。


不死鳥のタマゴ (1) (あすかコミックDX)

不死鳥のタマゴ (1) (あすかコミックDX)


癒し系というとやはり紫堂恭子を忘れてはならない。キング・オブ・癒し系とも言える「辺境警備―決定版 (1) (Asuka comics DX)」はこの人のデビュー作だし、そのものズバリ「癒しの葉 (1) (あすかコミックスDX)」なんてのも書いている。
その紫堂恭子の最新作がこれ。紫堂恭子ワールド最強のキャラ、不死鳥「ちゅんちゃん」の神々しいお姿は、きっとあなたのささくれだった心を癒してくれるに違いない。でも癒されるためにはちゅんちゃんへの限りないが必要なのだ。
あなたの心に愛はまだ残っていますか?



個人的に今一番はまっている癒し系。
険しい山地で外界から遮断された地、コーセルテル。そのコーセルテルで七人の子竜を導き育てる竜術士マシェルの子育て奮闘記は読んで癒されずには居られないのである。
ところでこの漫画、絵を見ると割とシンプルそうに見えるが、実は結構隠微に精妙で複雑な漫画である。
このコーセルテル、いわゆる「力ではたどり着けない土地」で、ここにいる人間達は皆、外の世界で失った何かへの心残りを残しているという設定なのである。
その失った何かとは、失った家族であったり、失った故郷であたっり、失った祖国であるなど、それは人が帰るべき場所である。主人公マシェルからして水害で全滅した村の生き残りである。そうした孤独な人達が疑似家族ごっこをやっているという深く考えすぎるととても怖い漫画である。
ちなみに竜術士には酒癖が悪い人が多い。酒を飲んで滝壺に飛び込んだり、酒を家族である子竜達に隠されていたり、一日5杯までと念を押されていたり、表向きは酒を飲んでいないことになっていたりする。滝壺はともかく、それ以外は妙にリアルで怖い。滝壺も何かの言い換えだとするとなおのこと怖い。
竜術士達は失った何かへの思いを酒で埋め合わせているのだろうか。一見ほのぼのとしているくせ読者にこんなことを考えさせてしまうあたり、やはり微妙に重い漫画である。



神戸在住(7) (アフタヌーンKC)

神戸在住(7) (アフタヌーンKC)


アフタヌーン、ほのぼの、癒し系と来ると、なんといっても「ヨコハマ買い出し紀行 13 (アフタヌーンKC)」なのだろうが、僕はこっちの方が好きだ。ほのぼのする時はほんとにほのぼのする漫画だし、癒される時はほんとに癒される。
でもこの巻は表紙がモノクロというあたりからわかるように悲痛な話である。



四冊目は「よつばと! (4) (電撃コミックス (C102-4))」にしようかとおもったが、こっちに。
舞台は人間とモンスターが共存する世界。主人公は英雄の息子で、人間と対立するモンスターと戦うための戦士を養成する学校に入り、と書くと最近流行の絵は可愛いくせに妙に殺伐とした血ドバ系の話を連想するかもしれないが、そういう要素はないので読んで安心。
それにしても石を投げると、絵は可愛いかったり綺麗だったりするのに、中身は殺伐系や血ドバ系の話に当たる現状はどうにかならないものか。
やはり時代は刺激を受ける何かをもとめているのだろうか。

ARIA 7 (BLADE COMICS)

ARIA 7 (BLADE COMICS)


現在最強のほのぼの癒し系漫画。10月4日よりTVアニメ放映開始。正直コミックのアニメ化、映像化なんてのはもう不感症というか、そういうニュースに接しても「ああそうですか」という感想しか出ないのだが、「ARIA」のアニメ化には久しぶりにわくわくしている。
それにしても「ARIA」は不思議な漫画だ。影というものがない。普通癒し系の話は「コーセルテル」のところで書いたように、喪失という通奏低音が背景に流れているものだが、「ARIA」にはそれがない。「コーセルテル」にしろ「不死鳥のタマゴ」にしろ、主要登場人物は何かの喪失を背負っているのだが、「ARIA」の登場人物には喪失したものがないのである。強いて言えば舞台となっている火星のネオ・ヴェネチア地球温暖化によって水没してしまった地球のヴェネチアへのオマージュという設定なのだが、これも「失われた」というよりは「懐かしい」という思いの方が強い。
喪失というありがちなネタを使わずに読者を癒してしまうあたりが、「ARIA」の凄さである。