諸星大二郎食玩を妄想してみる 異形編

諸星大二郎の描く異形の存在は文字にしにくい.
開明獣あたりは簡単である.獅子の体に人の顔だっけ?「孔子暗黒伝」(ISBN:4086170914)に出てきたシャーマンのおっさんがそう言っている.
しかしヒルコとなるとどうだろうか?もちろん原作(ISBN:4420137045)の方だ.映画のヒルコを文字にするのは簡単で「人の首のまわりに蜘蛛の足がついている」で終わる(ASIN:B00005HQZJ).
原作のヒルコは文字にしにくい.「ねじくれた木の枝の絡まりの上に楕円形の頭がついている」少し違うな.「外枠の骨組みだけになったグランドピアノの上にぽつりと頭だけがついている」ちょっと無理があるなあ.
ヒルコはイザナギイザナミの間に生まれた最初の子で骨なしの奇形児である.その辺のイメージからあれは作られたのだろうが,どうやればああなるんだ?
開明獣にしろ映画のヒルコにしろ,所詮は我々が見たことのあるもののパーツを組み合わせただけの代物である.だから文字に出来るのである.我々の語彙の中にはあれらの存在の各パーツに対応する言葉がある.一方原作のヒルコとなると,一応頭と胴体,それに手らしきものというパーツから構成されてはいるが,あのパーツに対応する言葉は凡人の語彙の中にはあるまい.強いて言えば手はかぎ爪だし,あたまの部分は人間の頭に取って代わったりすることもあるが,あの胴体となると途方にくれる.あれをさらに分割して,各パーツごとに似たものを探すというのも不可能だろう.そもそもあれは分割可能なのか?
たぶんあれは諸星大二郎以前には存在しなかった形なのだ.

タケミナカタ
これは文字にできる.背の高さというか体長はは5メートルくらいだろうか.人間の体にヘビの長い首と頭がついている.全身は土偶なんかに刻まれているような文様で覆われ,両腕はない.腕がないのはタカミカヅチの神に両腕を奪われた故事の反映だろうか?諏訪の洞窟で鎖につながれたタケミナカタが長い首を伸ばして武の肩に歯で刻印を刻んだ時に我々の知っている諸星大二郎の歴史が始まったのである.「暗黒神話」(ASIN:4420137037)
鳥といっても何種類かあるが,一番古い奴.名前はハーピーかもしれないが自信がない.異星に派遣された探検隊が発見した生物.ペンギンを横にでかくして大きな翼をつけた感じだろうか.胸の部分に人間の女性の顔のような模様がついている.これは雌で,雄は水鳥で水面上を生活域としているようだ.この雄達が空に住む雌達と集団で交尾をする有様はかなり衝撃的な光景である.だが,その群れに加わらず人間の男性の様子をうかがう雌が一匹いた....「アダムの肋骨」.現在は「失楽園」に収録されているようだ.(ISBN:4420137029)
諸星大二郎で一番怖い話.素人にはお勧めできない.少年が見つけた「それ」は飢えていた.餌をやるととりあえずは満足する.少年は「それ」を家に連れ帰り,親に隠れてペットにする.「それ」に与える餌も最初は小さいもので満足していたが,次第にエスカレートしていく.「袋の中」(だよな,確か).「不安の立像」収録(ISBN:4420137487).紙袋の中に収まった暗黒の中から,丸い目がふたつ.上を向いて,餌が落ちてくるのを待っている.実際には袋の中身は空だろう.「それ」の欲求は主人公の欲求に他ならない.貪欲な「それ」の本当の住処は人間の心の中である.
ヨグ
作家の段先生ご夫妻の一人娘,クトルーちゃんのペット.六本足の山椒魚(あれは爬虫類ではないと思う)の背中にもう一つ頭がついた感じ.クトルー神話のヨグ・ソトホースとの関係は不明.隙があると刃物を振り回して人間を切り刻もうとするので注意.「栞と紙魚子」シリーズ(ISBN:4257722118)の準レギュラー.このシリーズは諸星的な造形の宝庫で,中身はホラーギャグなので,絵に抵抗がなければ万人にお勧め.
カオカオ様
ちょっと記憶があいまいなのだが,全高30メートルくらいか,あれは.卵型の胴体に足が二本ついている.胴体の前と後の顔がついているんだよな,確か.2chアスキーアートがあるとか.とある異国というか異星というか場所不明の世界の風物詩みたいなもので,ある時期になると,どこからか現れてどこかへと歩いて去っていく.ある土地では神として崇められ,別の土地ではひたすら無視される.カオカオ様に興味を持った旅人はカオカオ様を追いかけてみるのだが,カオカオ様の存在についての納得のいく答えは得られず,その世界の様々な人たちを見ただけであった...「カオカオ様が通る」,諸星大二郎自選短編集Ⅱ(ISBN:4087826198)が手に入りやすいか.連作の一編なので,「夢の木の下で」(ISBN:4838709706)が手にはいるようならそちらを
無面目
厳密には人間編に入れるべきなのかもしれないがこちらに.諸星大二郎の最高傑作ということになっているので,外すわけにはいかない.姿は人間だが顔がのっぺらぼうである.顔がない故に視覚や嗅覚といった人間的な感性,喜怒哀楽といった人間的感情から無縁である.無面目は瞑想する神である.ところが戯れに顔を描き込まれてしまい,そこから無面目の転落が始まる.「無面目」.「無面目・太公望伝」(ISBN:4267016127)
シークレット
クトルーちゃんのママ.普段は半開きのドアや襖の陰からでかい顔がのぞくだけである.その顔は芋虫状の長い胴体の先についているらしい.全体像は不明.そもそも3次元+1次元空間の住人である我々にクトルーちゃんのママの全体像が認識できるとはとても思えない.こう書くとむちゃくちゃなキャラに見えるが,中身は家族思いの親切な奥さんで,段先生一家の中では一番まともなお方.シークレットということだから,クトルーちゃんのママの全身像のフィギィアじゃないとファンは納得しないだろう.原型師の腕の見せ所である.

作品が偏っているのはご容赦.あと「西遊妖猿伝」のキャラがないのもご容赦.あのシリーズはブツなしで書けるほど詳しくはないので.「西遊妖猿伝」は登場人物が多いのであれだけで食玩1セット作れるだろう.

あー,ところで食玩なので,おまけにお菓子が必要である.今更お菓子のおまけだと言う人はいるまい.コンビニでサンプルを何種類か調べたが,ラムネ菓子が多いようだ.後はガム,チョコレート,キャンディ.
我々の諸星大二郎食玩のお菓子はキャンディとする.理由は割と自由に形を作れるからである.そう.諸星大二郎食玩はお菓子の方も諸星キャラなのだ.で,諸星キャラで食べ物となると当然こいつになる.

ムルムル
クトルーちゃんのママの故郷の世界の生物.クトルーちゃんのママや親戚の方々にくっついてこっちの世界にやってきた模様.すでにこちらの世界での繁殖が確認され,ある程度の規模のコロニーが存在するようだ.あちらの世界では珍味で,クトルーちゃんのママは生で食べる.佃煮にしてもおいしい.
追記
クトルーちゃん」キーワードになってます.負け.さすがの楽天クトルーちゃんは売っていないようです.うーむ,思いがけないオチがついたな.まあいいや.ミキティに勝ったぜ(笑)


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