ラテン語の世界
- 作者: 小林標
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 新書
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言語学者は意地が悪い。世に溢れる言葉と言葉の間に潜むほんの些細な過ちを目ざとく見付け出しては大袈裟に騒いでみせ、時には世紀をいくつも遡った立場から説教を垂れる。エラスムスは我等の時代においてはもはやce,ciは正しく発音されなくなったと嘆いている。広辞苑の編者、新村出は芥川龍之介の「奉教人の死」について触れたのエッセイにおいてLegenda Aureaは「れげんだ・おうれあ」ではなく「れぜんだ・あうれあ」と読ませた方がよかっただろうと指摘している。キリスト宣教師が来た時代にはgeは「ゲ」とは発音しなかったからだ。
この本の著者もまた言語学者の本性に忠実な人物のようで、巻頭から巻末に至る26字×28行×286ページの間に、蘊蓄としてすら使えそうもない些末な事柄が懇切丁寧な解説付きでびっしりと書き込まれている。
- 屈折語という単語の正しい理解
- 基層語、上層語、傍層語、迂言語という単語の意味
- アウグスティヌスの母はカルタゴ語話者であったらしいこと
- 英語のaction,agitator,agent,agileはラテン語の同じ語根agより発生していること
- humanのmanは英語のmanとは関係ないこと
- feminismは本来femininismと綴られるべきこと
- werewolfの前半は男を意味するvirに由来すること
- payの語源はpaxであること
- nativeには原住民という意味があるから、日本において「ネイティブ」と呼ばれるべきは我々日本人であること
- 西脇順三郎のラテン語詩、「哀歌」はエレゲイア形式に則っていないこと
- 大量破壊兵器はラテン語でunivesalis destructionis armamentaと綴ること
ちなみにラテン語でinternetはinterreteと綴るのだそうな。interはラテン語だが、netはゲルマン語源なので、ラテン語で「網」を意味するreteに置き換えられたと著者は解説している。
本書は、こういう解説を延々と読まされてもギブアップしない人むけの本である。
無人島に一冊だけ持って行くにはちょうどいいかも。