ホテル・ルワンダ


見終わってから、誰に見せる映画だろうかという疑問が湧いた。
この映画でまともにセリフのある黒人(正確にはルワンダ人)で役もまともなのは、主人公と妻、それに部下のデュぺくらいなもので、その一方、腐敗した将軍ビジムング、虐殺用のナタを買い込んでくる実業家ルタガンダ、主人公の部下で裏切り者グレゴワールと半分は悪役だ。
一方、まともなセリフのある白人は、ツチ族難民のために体を張る国連平和維持軍のオリヴァー大佐、ホテルを救うためにフランス大統領府に掛け合うミル・コリンホテルのオーナーといった人達ばかりで、しかもニック・ノルティジャン・レノだったりする。
もちろん悪い白人も登場はする。オリヴァー大佐にツチ族の難民はホテルから退去できないと告げるフランス人将校。ルワンダで大領虐殺が起きているという事実を公式には認めないために姑息な言辞を弄する大統領報道官。介入軍の派遣を見合わせルワンダを見捨てた英米仏の指導部。しかしこうした”悪役”は観客の目の前にいないどこか遠い場所にいる匿名の人物としてしか登場しない。オリヴァー大佐とフランス人将校のやり取りの場面もロングショットでセリフはなし。観客は劇高したニック・ノルティが地面に帽子を叩き付ける演技を見て、何かまずいことが起きたと察するのである。
この映画には顔を持った悪役の白人は登場しない。悪いといっても何かをしないという消極的な悪役でしかない。その一方で何か悪い事をする--それこそナタを振り回し、小銃を乱射し、賄賂をせびり、ゴキブリ共をぶち殺せと叫ぶ--顔を持った黒人はわんさと登場する。この映画を見た白人の観客はルワンダを見捨てた自国政府の冷淡さや、ルワンダ虐殺という史実を知らなかったという自分自身の無知や無関心を突きつけられて多少居心地の悪い思いはするかもしれない。だが本当に居心地の悪い思いはしないだろう。でも黒人やマイノリティの観客が見たらまた別の感想を抱くのではないか。

こうしたメインの観客にフォーカスを当てたトリミングは必要悪だというのは分かっている。政治的に正しい映画なんぞ資金不足その他もろもろの理由でまともに作られないだろうし、まともな配給ルートにも乗りはしない。「ホテル・ルワンダ」が政治的にも正しい映画だったら、日本で公開されたとしてもどこかの大学の古い講義室か、なんとか文化会館の中くらいの会議室で上映されるのがせいぜいだろうし、観客もその筋の人達ばかりが占めるだろう。立川のシネコンなんて快適な空間で「有頂天ホテル」や「オリヴァー・ツイスト」と並べて上映されるというところまではたどり着けなかったに違いない。
ホテル・ルワンダ」、確かに甘っちょろくてわかりやすくて嘘くさい映画で、その甘っちょろさ、わかりやすや、嘘くささは非難の対象になるかもしれない。でもその甘っちょろさ以下略はルワンダ大虐殺という苦い事実を出来るだけ多く人達に飲み込ませるために必要な甘い糖衣なのだろう。

とうだうだと書いたけど、必見。しかも早めに見ておいた方がいい。いや拡大ロードショーでロングランになるのかもしんないけどさ。

ホテル・ルワンダ 公式サイト
http://www.hotelrwanda.jp/