稗田のモノ語り 魔障ケ岳 -妖

稗田のモノ語り 魔障ヶ岳 妖怪ハンター (KCデラックス)

稗田のモノ語り 魔障ヶ岳 妖怪ハンター (KCデラックス)

奇才、諸星大二郎の最古参キャラ、稗田礼二郎シリーズの最新刊。
いやあ、先月の「諸怪志異 4 燕見鬼 (4) (アクションコミックス)」に続いて、2ヶ月連続で諸星大二郎の新刊が出るとは。長生きはするものだ。しかも今月は集英社漫画文庫から、稗田礼二郎シリーズの総集編が二冊出る。一月に三冊の諸星大二郎。一月に三冊の稗田礼二郎。こんな奇跡が起きてしまっては、残る人生、何を楽しみにして生きていけばよいのだろうか。
さて今回の稗田先生だが、アーシュラ・K. ル・グウィンゲド戦記1巻「影との戦い―ゲド戦記 1」の精神的続編だろうと勝手に決めつけてみる。どちらも名前付けが物語の鍵となる話である。ただしゲド戦記の方は世界の果てに赴いた主人公が名付け得ぬ「影」に名前をつけたところで終わるのに対し、「魔障ケ岳」の方は修験者すら避ける魔性の山で遭遇した名付け得ぬ「モノ」に稗田先生一行が名前をつけたところから始まる。そしてこの名付けられた「モノ」が名付け親に付きまとい奇怪な蠢動を始めるというダークファンタジーなお話である。
稗田礼二郎シリーズといえば伝奇ロマンの集大成みたいなシリーズのはずなのだが、今回は「モノの名前付け」というファンタジー的な要素がメインになっていて、いつもの古事記がどうのといった伝奇的な要素は、後付というか付け足しの方に回っている。それに諸星的な曲線美(笑)もあまり堪能できないのが寂しい。ラストは諸星節が少しは炸裂するのだが、これもやや不発。いや諸星先生はあえて脱力的なラストにすることによって21世紀の人間は、もはやぱらいそには行けないのだという絶望というか皮肉を込めたのかもしれないという感想はほとんど意味不明だろう(爆)。

とうだうだ書いたが、諸星ファンにとってはMust Byな1冊であることは間違いない。