天の声・枯草熱




いまや幻となったサンリオ文庫で刊行されたレムの2大長編つい復活。
でも、このレムコレ版、結構くせ者だ。コレクターズアイテムとしてはMustだけどちゃんと読む人はどのくらいいるのだろう。
まず内容以前に本の体裁が手強い。
長編二つを一冊の本に収めるためにはしょうがないのだろうけど、なんとページレイアウトは上下二段組み。フォントも少し小さめで読みづらい。
中身もミステリという体裁で読者を引っ張っていける「枯草熱」はまだしも、天才数学者の独断的な回顧録という設定で書かれている「天の声」は読書中、集中力が切れると睡魔に襲われる。
そういうわけでレムコレ版、サンリオ文庫版も持っている人にとっては巻末の沼野充義氏の解説くらいしか読むところはない。蔵書印を貼って書棚に収めてしまうのが吉だろう。レムコレ版で初めて読む人というには、まあがんばって下さいとしか言いようがない。
挫折しそうな人のために少しアドバイスを書いておくと、最初のもったいぶった回想のところは飛ばしていいです。44頁の第3章からやっと謎のニュートリノ信号が発見されて……という本編が始まるので、そこから読み始めることをお勧めします。それでも挫折しそうだという人は、「天の声」をすっ飛ばして先に「枯草熱」を読んでしまいましょう。そして巻末の沼野氏の解説を読んで「天の声」を読んだ気分になればいいです。
レムは「完全な真空 (文学の冒険シリーズ)」や「虚数 (文学の冒険シリーズ)」といった存在しない本、架空の本の書評や序文を書いたお方です。そんな作家の長編をまともに読むのはナンセンスです。本編を読まずに序文だけを読むなり、訳者後書きや誰かの書評を読んでお茶を濁すなりしてもなんの問題もありません。
そう、「天の声」という小説は存在しないのです。あなたにとっては。