蝉しぐれ


たまたま書店であった「藤沢周平 心の風景 (とんぼの本)」を手にとってひどく悔しい思いをしたことがある。
この本に収められた藤沢周平の故郷、鶴岡の写真があまりにも鮮やかすぎたのだ。僕は山形が好きで鶴岡も去年行ったのだが、俺の見た鶴岡の風景はこんなに鮮やかじゃなかったぞとうらやましいやら悔しいやら。やはり藤沢周平ではなく僕の心の風景は少し霞ががった曇り空なんだろうなあと寂しく思った。映画の「蝉しぐれ」を見てその時のことを思い出した。冒頭の立木の向こう側に広がる青空に完璧にやられた。
このシーンに限らず、自然の風景があまりにも鮮やかで美しい。闇夜の荒れ狂う川面のシーンですら、水のしぶきの一滴一滴すら手に取るように鮮やかに見える。この鮮やかな風景に彩られた主人公の少年時代の場面はみな胸に染みる。
しかしこれが数年後、特殊効果に支援された秘剣を振るう犬飼兵馬と加藤武演ずる威厳もへったくれもない悪家老里村左内の登場とともに民放時代劇レベルまで落ちていくのだ。ラストのシーンで持ち直すとはいえ途中は見ていて辛かったぞな。ちなみにNHK版「蝉しぐれ [DVD]」では里村左内を平幹二朗が演じている。ついでにいうと映画にもNHK版にも柄本明が出てくるのはどうにかならなかったのか。一瞬混乱したぞ。あの年代を演じられる役者が払底しているのかな。
終わりよければ全てよしとはいえ、やっぱNHK版の方が出来がよい。映画の日で1000円で見られたからいいけど。