今日の短編・神はいかにしてミャオル・ミ・ニンの仇討ちをしたか

某梅田さんの今日の短編が最近お休み状態なので勝手に代打を買って出るというかなり不遜な試み。


時と神々の物語 (河出文庫)

時と神々の物語 (河出文庫)


舞台はもちろんここじゃない別の世界。
地上の民、アブ・アリフに睡蓮の花を捧げられた豊饒の女神リンは、月の世界からアブ・アリフへと七日間の快い夢を賜わす。
なんでアブ・アリフにそんな特別待遇をと訝った神々が詳しく調べたところ、アブ・アリフが豊饒の女神に捧げた花は、アブ・アリフの敵、ミャオル・ミ・ニンが摘んだもので、なんとアブ・アリフはミャオル・ミ・ニンをぶち殺して睡蓮の花を奪い取っていたというとんでもない事実が判明。
怒り狂った神々は、アブ・アリフに天誅を下すべく稲妻を地上に落としたが、なぜか稲妻はアブ・アリフの家の近くを通りかかった放浪者に当たり、この放浪者を殺してしまう。
とんでもない話だが、神々はこの結果に満足し怒りを沈静させてしまうのだ。


理不尽な話である。よく「アリとキリギリス」のバリエーションでキリギリスは冬になっても楽しく暮らしました程度の話を書いて、悦に浸っている奴がいるが、「神はいかにしてミャオル・ミ・ニンの仇討ちをしたか」の理不尽さはあきらかにレベルが違う。
この短編、わずか二ページちょいの掌編である。よって伏線もクソもないのだが、でもよく読むとこの理不尽さの謎を解く鍵が見つからないこともない。
この話の謎を解く鍵は、アブ・アリフに睡蓮の花を捧げられた豊饒の女神リンについての記述に隠されていると思う。

最後に彼は、睡蓮の花を捧げられたときにリンの顔に浮かんだ微笑みについても語った

そして彼が、アブ・アリフは今夜死ぬであろうと誓言すると、雷が彼の周りで轟き、リンの涙は空しく流された。

この僅かな記述からでも明瞭にわかることがある。
アブ・アリフはモテである。
それも豊饒の女神を魅了するほどのモテである。きっと運命の女神ともよろしくやっていたに違いないのだ。だからアブ・アリフは神々の怒りからも無傷で逃れられた。そうに違いないのだ。
やはりザビ家の人間とモテは許せんとわかったところで今日の短編・代打編はお終いとしたいところだが、これではただのイロモノ・ネタモノになってしまうので、一応主流文学ぽいものも読みましたとしてお茶を濁しておこう。もっとも100頁近いものを短編と言い切るのは抵抗があるし、これは小説ではなくてエッセイだろと言われると、いや作者が小説だと言い張ってますと言うしかないのだけど。


「生きる歓び」より「小実昌さんのこと」

生きる歓び (新潮文庫)

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