かなり気まずい瞬間

土曜の午後、駅の階段を下りていく途中で、下から上ってきたあるおっさんと目が合ってしまった。
瞬間、かなり気まずい空気が流れた。
このおっさん。僕が住んでいる地区の自治会長なのである。この手の会長職を引き受ける人はみなそうだが、彼もある種のプチ権力者でしかも日の丸・君が代大好きな人間なのだ…なんてことはなくて、まったくの初対面、知らない人だ。
でもやっぱり気まずい空気は流れるのだ。
原因はおっさんの服装にあった。
僕は好奇心が強い方で、だから街中で奇抜な格好をしている人がいるとオートマチックに目でブクマしてしまう。その一方小心者でもある。たいてい奇抜な格好をしている人は中身も劣らず奇抜でおっかなそうなので、ガン付けられると思われては困るなと思いすぐに視線を外す。ついでにこんな情けない自分に腹が立つ。
そして視線がかち合ってしまったおっさんの出で立ちはというと、なんとサンドベージュのチノパンにレモンイエローのポロシャツという、どうってこともない服装であった。普段ならこんな服装の人は視野の中に入ってきても認知の対象にはならず無意識下でその他大勢ってことで処理される。
しかしその日は違った。サンドベージュのチノパンにレモンイエローのポロシャツという服装は僕に重大に認知される運命にあった。
理由は、その日たまたま、僕もサンドベージュのチノパンにレモンイエローのポロシャツを着ていたからだ。
しかも上下が同じだけならまだしもそのおっさん、背格好も同じくらいで、色白、のっぺりした顔、細い狐目に銀縁眼鏡ってところまで同じだった。僕の方が一回り年下で、一回りスリムでもあるという2点で局地的には圧勝しているが、全体としては同じような服装で中身も同じような人間が僕の目の前に現れたといういやーんな事実は動かせない。そしてこのいやーんな感じは程度の差こそあれ向こうも同じように味わっているのは間違いないだろう。
この僕のいやーんな気分、そして向こうも僕の事をいやーんな感じに思っているだろうなと想像してしまったことが、冒頭に書いた気まずい空気の正体である。
さてフィクションの世界ならこのおっさんは僕の十年後の姿だったり、ある種のウィリアム・ウィルソンだったりするのかもしれないが、もちろん現実ではそんなことはなくて、階段を下りゆく僕と上ってくるおっさんは何事もなかったかのように無言ですれ違った。当然である。なにかあるわけがないのだ。
というわけでこの一件、ネタに困ったブロガーが、こんな出来事もブログになるかなと脳内でブクマしただけに終わった。それからもう一つ、日曜日はユニクロのポロシャツはやめてバーバリアンの半袖ラガーシャツにした。これならブランドはともかく同じ柄のやつを着ている人に出くわす可能性は皆無である。