中華文人食物語

中華文人食物語 (集英社新書)

中華文人食物語 (集英社新書)


ページをめくる度に著者に対する怒りがふつふつと湧いてくる本。


文人と題名にはあるが、文人に限らず中国の古今の著名人が愛した料理を著者は博識の限りを尽くして語っている。。
それにしても中国はうらやましい。古典に出てくる料理が今でも食べられるのだから。
これが日本だとどうであろうか。古典に出てくる料理を再現したところで現代の我々の口には合わないだろう。それ以前に古典を読んで「この料理が食べたい」と思うことがどれだけあるだろうか。今昔物語(成立は12世紀)の芋粥のエピソードを読んで「俺も芋粥を食ってみたい」と思う人はどれだけいるだろうか?*1
一部の例外を除けば古の人々が愛した料理で我々の口にも合うのは江戸時代以降のものとなるだろう。
そこへいくと中国は違う。蘇東坡(1036-1101)の東坡肉を始め古典に出てくる料理やその直系の子孫がばりばりの現役なのである。東坡肉なんかその辺のラーメン屋にもある。
そしてなにがうらやましいって、著者はそういう中国古典に繋がる料理をあちこちで食いまくっているのである。
ハノイでビヤホイ*2飲みながら犬の腸詰を食うのはまだ許そう。上海で蝦子大烏珍、蝦の卵で味付けした大ナマコを食うのもまだ許せる。あたしゃナマコ食わないからね。しかし水道橋や新宿といった僕にとっても手近な場所でうまいもの食いまくっているのはチト許せないのである。

数年前、夏のうんと暑い盛りに、知人と西新宿の公園を歩いた事がある。日が暮れてきたので、方南通り沿いの「山珍居」に行って夕食を食べた。御存知、台湾料理の名店である。
席について、季節のメニューを見ると、「スッポンの卵」と書いてあったので注文した。それと苦瓜のサラダを肴に老酒を飲みはじめた。
スッポンの卵で例の酒漬けで、冷やしてあり、口に入れるとスーッとする。薄切りにした苦瓜はほのかに甘く、これも清涼な感じである。たちまちに暑さを忘れて、十分に酒を飲んだ。

中華文人食物語 62ページ

このくだりを読んで平静な気分でいられる人はよほど寛容な気性の持ち主なのであろう。僕なんか本に向かって俺にも食わせろと食ってかかりたくなる。
とにかく面白い本である。ただし空腹時に読むのは全くお勧めできない。

*1:実際には芋粥結構美味しいそうです

*2:ベトナム地ビール