秒単位で情けない私

日曜日の東急某駅。
改札を通って左に曲がり、渋谷方面へのホームに通じる階段を上る。
ホームでは各停の電車が走り出そうとしていた。発車を告げるチャイムが鳴り終わりドアが閉まる。
いつもなら少し焦る場面だ。電車が遅れて、ひとつ前のに乗っていればよかったと後悔する日はよくある。しかし今日は休みだ。乗り損ねた電車を見送る余裕はある。
しかし変事が起きた。
電車が走り出さないのだ。ホームに停まったままだ。静止した時間が一秒、二秒と過ぎる。
電車を見ても誰かがドアに挟まった様子はない。だから反射的にこんなアナウンスを予期した。「先行する電車との間隔が詰まっておりますので…」
また電車が遅れるのか。
でもそのとたん電車は走り出した。アナウンスも何もなかった。
我ながら呆れた。もちろん自分にである。
ちょうどその時、反対側のホームでも中央林間方面への電車が走り出すところだった。こちらはドアが閉まり、空気が抜けるシュッというと音を立てるとすぐに走り出した。
その光景を見てとてもほっとしたのである。

「ドア閉まります。駆け込み乗車はおやめ下さい」。発車合図の音楽が鳴り、満員電車の中の乗客たちは体を奥に押し込め、一瞬、息を止める。その一瞬に合わせるようにして、「ドア閉まります、ドア閉まります」

定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)

こんな毎日によって刻まれたリズムは僕の体に骨の髄まで染みこんでいるらしい。