アヤックスの戦争
- 作者: サイモンクーパー,Simon Kuper,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2005/02
- メディア: 単行本
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買うか買うまいか迷っていたが以下の一節を見付けて即買い決定
オランダにおけるホロコースト・タブーの弱体化がはっきり見て取れるのがテオ・ヴァン・ゴッホの軌跡である。画家ゴッホの弟の子孫であるヴァン・ゴッホは映画作家として知る人ぞ知る存在だった。それから80年代はじめ、ヴァン・ゴッホはユダヤ人作家レオン・デ・ヴィンターに対し、ホロコーストをベストセラー小説の材料として利用していると攻撃しはじめた。
(中略)
ヴァン・ゴッホがやっているつもりだったタブー破りこそ、オランダのアート界で重んじられる暇つぶしだった。大きなタブーはかつてはセックスと神聖冒涜だった。一九八〇年頃から、それはホロコーストに取って代わった。新進の芸術家にとっては、ガス室をネタにするのは独創的で、ウィットに富み、重要な存在だと思われるための近道だった。新聞に出られるのだ。
だがその手はもうあまりうまくいかなくなった。(中略)反ユダヤ主義はまったく時代遅れだったアヤックスの戦争 277頁
本書の完成後に起きた事を補足しておく。十四章に登場する映画作家テオ・ヴァン・ゴッホは二〇〇四年十一月二日、アムステルダムで暗殺された。犯人はモロッコとの二重国籍を持つイスラム原理主義者である。ヴァン・ゴッホが撮った作品"Submission"がイスラム教による女性の抑圧を非難する内容だったため、命を狙われたものと見られている
アヤックスの戦争 303頁 訳者あとがき