名誉毀損裁判

名誉毀損裁判―言論はどう裁かれるのか (平凡社新書)

名誉毀損裁判―言論はどう裁かれるのか (平凡社新書)

Bloggerとしても気になる名誉毀損罪について豊富な実例を交えて解説している。
ただしわかりやすい本ではない。これは著者の責任ではなく、そもそも名誉毀損罪自体が「名誉を毀損したら罰する」としか規定されておらず、何が名誉でどうすると毀損になるかは実際の判例によって示すしかない。しかもこの判例に著者が批判を加えている上に、判例自体が時代によって変わっていくのだ。おかげで名誉毀損というものが形のない、捕らえどころのない概念である事だけはよくわかった。これは著者の狙いでもあるようだ。

本書で見てきたように、名誉毀損が違法となるかどうかは必ずしも明確でなく、(中略)従前の判例を基準にすることは必ずしも妥当ではない
名誉毀損裁判 189頁


以下見出しの文章を少し並べてみるが、これだけでも名誉毀損がいかにやっかいな代物であるかよくわかる。

  • あらゆる表現活動が対象に
  • 名誉毀損は量を問わない
  • 「虚名が害される危険性」だけで
  • 断り書きの記述も無視される?
  • 名前を伏せても名誉毀損になる
  • 裁判がどうなるかの予想は困難
  • 「公正な論評」の適用範囲
  • 通信社からの配信も鵜呑みに出来ない
  • 表現した側にのしかかる立証責任

特に最後の「表現した側にのしかかる立証責任」がくせ者で、日本の名誉毀損裁判では真実性などの主張、立証責任は被告側、つまり表現した側にあるのだ。したがって原告、名誉毀損されたと訴える側は弁護士を立てない本人訴訟でもやれないことはないが、名誉毀損で訴えられた側は弁護士を立てないと厳しい。

名誉毀損の民事裁判は、本人訴訟の原告でも、言論側を被告として、かなり追い込む事が可能な構造になっているのだ。

名誉毀損裁判 125頁

この本に書いてない事で気になるのはやはりBlogの扱いである。Blogの場合、リンク、トラックバック、引用、転載などによってトレンドが生成されるわけだが、名誉毀損になるようなネタ元のサイトはともかく、そのサイトにリンク、トラックバック、引用、転載などしたBlogのオーナーも名誉毀損になるのだろうか。こればかりは実際に判例が出てみないとわからないが。

マズ・メディアが横並び的に一斉に攻撃すると、段々と熱を帯びてきて名誉毀損エスカレートする場合もある。特に興味深い犯罪がらみの事件になると、競って根掘り葉堀り事件の本筋とは関係のないところまで、他人の名誉やプライバシーを省みない表現も現れる

名誉毀損裁判 115頁

などという現象はネットでもよくある、ありすぎることであり、やはり慎むべきだなと思う。