華氏911(にかこつけて適当な事を書いてみる.長いよ.)

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George W. Bush

華氏911」より.何かのパーティでのスピーチ

要するにこういうことである.George W. Bush君のお友達リストに載っている連中が今のアメリカを仕切っていて,こいつらが実質的なアメリカという国になっている.もう一つのアメリカ,我々が普通アメリカと認識する表の国家の方はBush君からInvite Mailなんか絶対もらえそうもないRest of usな人たちを締め上げるための装置に成り下がっている.
でBush君があまり滅茶苦茶なことをやるのでKerry君を大統領にしようとみんな頑張っているのだけど,Kerry君が大統領になったとしても,状況はかなりマシになるとは思うが,結局はアメリカを仕切るメンツがKerry君のお友達リストに載ってる連中に変わるだけで基本的な構造に変わりはない.しかもKerry君のお友達リストに載っているメンツの半分はBush君のお友達リストにも載っているに違いない.

それにしても驚くべきはアメリカのコネ社会ぶりである.そもそも現大統領からしてPapa Bushのコネで大統領になったようなものだ.(1992年のインタビューで僕には強いコネがあるもんねと明言している).疑惑のフロリダ州知事はBushの弟,星条旗大好きなFoxの幹部はBushの従兄弟,親戚だけじゃなくてBush絡みの訴訟を引き受けた弁護士はサウジアラビア大使にしてもらえる.一緒に無許可離隊したお友達は関連会社の社長にしてもらえる.僕もこんなお友達が欲しいな.
アメリカでなぜソーシャルネットワークのようなサービスが立ち上がったのかわかるような気がする.お友達のコネコネ社会というのはアメリカの一面なのであろう.同時になぜソーシャルネットワークは使われなくなってしまうのかという理由も明らかだ.その辺のソーシャルネットワークにはBush君のようなお友達になっただけで社長にしてくれるようなパワフルな人間はいない.ソーシャルネットワークなんてものにコネを頼らざるを得ない人間はすでにLooserなのだ.本物のコネを持っている人間は銀のスプーンをくわえて生まれてくる.

先に表のアメリカ国家と裏のアメリカ国家について書いたがここにも問題がある.表のアメリカ国家の方は国民国家の枠組みに囚われているのに対し,裏のアメリカ国家の方はすで国家の枠組みを超えている.なにせBush君のお友達リストにはカルザイ,現アフガニスタン大統領やサウジアラビアの王族,おまけにオサマ抜きのビン・ラディン家も入っているのだ.彼らは表の国の国家元首も兼ねているのだが,彼らがどこまで表の国の国益を重視するのだろうが?表の国の道具としての有用性を重視する限りにおいては表の国益を尊重するではあろうが,必要ならば裏の国益を優先させるのではないか?

さて表の国のアメリカであるが,Bush政権下では裏の国の食い物にされているらしい.米政府の2004会計年度の赤字は4000億ドルを超える.華氏911ではオレゴン州の州の警官が予算削減のおかげで州全体で8人しかいないという状況を取り上げているがこの赤字ではやむを得まい,一方,裏の国の住人,ハリバートンの2003年第4四半期の決算によるとイラク関連の売り上げは22億ドル。利益は4400万ドルである.なおそれでもハリバートンの第4四半期の決算は純損失が9億4700万ドルだそうな.イラク戦争が起きなければハリバートンは破産していただろう.

もっとも、株式市場はまったくそれを意に介してはいないようである。不正請求まで行けば別だが、優遇されている程度ならば、力づくで押し切ってしまえると見ているのか。だとすると、政府と近いということが、受注を得やすいこと示し、業績にとってはポジティブな材料となりうる、こんな連想も働くだろう。

ここまで虚仮にされているにも関わらず表の国のアメリカの人たちで現政権,あるいはイラク戦争を支持する人は多い.何故だろうか.物が見えていないからか?だとしたら華氏911が目を覚まさせてくれるだろうか?でも僕はこのあたりの問題はあのお母さん,後にイラクで息子さんが戦死することになるお母さんの言葉にヒントが隠されているのではないかと思う.あのお母さんは以前は反戦運動に対して深い嫌悪感を抱いていたそうである.当然であろう.身内が軍隊にいる人間にとっては反戦運動なんてものは,特に戦時においては自分の身内が背中から撃たれるようなものだ.軍人が身内にいるような人は多少の理不尽さを覚えるようなことがあっても政府と戦争を支持さざるを得ないだろう.家族のために.
しかし見方を変えてみるとどうであろうか.軍隊にいる家族のために自分の意志を曲げて政府と戦争を支持するというのは,家族が政府と戦争に人質に取られていることになりはしないか?そういう人達は家族の事を考えれば政府と戦争に対して自由な立場を取り得ないのあるから.
いや我々自身についてもどうだろうか?華氏911では愛国者法についての街頭インタビューで,安全のためには,多少の不自由はやむ得ないと答える人の映像を引用していた.日本で同じようなインタビューをしても同じような答えが返ってくるケースが多いのではないか.しかし身の安全を保証してもらう変わりに自由を差し出すというのは,誰かの人質になるというのと同じではないのか?我々は911以降,身の安全を担保として国家の人質になってしまったのではないだろうか?そしてこのように家族と国民を人質に取る立場からすれば,その口実としてのテロとの戦争が長く長く続く方が大変望ましいのである.

I ask for your patience, with the delays and inconveniences that may accompany tighter security; and for your patience in what will be a long struggle.

少し話を転じて,最近流行のFree Cultureな方面な立場からも論じてみると華氏911ドキュメンタリー映画ではあるが,同時にコラージュ作品でもある.オープンニングのところのお化粧直しから始まって休暇中のブッシュ君のお間抜けな映像,小学校での決定的な瞬間,30秒では蒸着できそうにないパラシュートや綺麗事たっぷりのハリバートンのCM,ブッシュや閣僚たちが大量破壊兵器があると断言しまくるニュース映像,このエントリでも冒頭で引用したがブッシュの迷言集,こういった既存の映像を巧みに引用しているのだが,これからはどうだろうか.ホワイトハウス華氏911のカンヌグランプリ受賞に際して「我が国に言論の自由があることが証明された」とかいう声明を発表したらしいが,Bush政権が続投したり,あるいはKerryが当選した場合でも,ムーアのやり方に米政府が真に脅威を感じるようであれば,こうした映像の引用を厳しく制限する方向に行くのではないだろうか.知的財産権やら何やらを保護したいという業界の願望にも沿うわけであるし.そうなると華氏911のようなドキュメンタリー映画は持たざる者には作れなくなってしまう.いやー,確かにフェアユースって大事だわ.

なお華氏911はあくまでプロパガンタ映画である.だから華氏911の内容を丸ごと鵜呑みにするのは危険である.例えばあの小学校のシーン.Bushが小学校の授業に参加してしている途中で,アメリカが攻撃を受けてますと密かに知らされてフリーズしちゃうシーン.あの場面でBushはさんざんからかわれているのだが,あえてBushを擁護してみよう.彼はウェリントン公爵の例に習ったのである.
ワーテルロー戦役の前夜,ブリュッセルで開かれた晩餐会に招かれていたウェリントン公爵は,その席上,ナポレオン軍出撃すとの急報を受け取ったのであるが,何事もなかったかのように歓談を続けたそうである.まさに泰然自若と言うべき態度の見本であるが,Bushも同じことをしたのかも知れない.大統領がそそくさと立ち上がり,慌ただしく退席していたら,あの場にいた人々は何か非常事態,ひょっとしたら核戦争でも起こったのかと思い,パニックに陥ったであろう.まして場所は学校である.学校がパニックに陥ったら子供達に何が起こるかわからない.みんな泣いちゃうかもしれない.罪もない子供を泣かせるようなことは国家の指導者のやるべきことではない.だからBushはあの時,あえてあの場に留まって,何事もなかったかのように装っていたのではないだろうか?そういう解釈だって成り立つ.ムーアのナレーションに惑わされていけない.
とかばっては見るけど,妙にきょろきょろしてオドオドしていたよねえ.泰然自若にはほど遠いわ,あれは.

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