海底二万マイル

なんか「海底二万マイル 読書感想文」で検索をかけている人がいるらしい.
これを題材にするのは小中学生だろうか?僕は子供に読書感想文を書かせるのは反対で,そんなことをやらせるくらいなら詩でも書かせる方がいいと思うが,まあ詩となると評価する方の国語の先生の感性の方がむしろ試される事になるので,僕の提案が取り上げられるようなことにはならないだろう.
そういうわけで,どこかの困っているお子様のために,参考になることを少し書いてあげよう.なにせあの本は入手する事自体難しいはずだ.

海底二万マイル」は潜水艦小説では数少ないジュブナイルものである.
登場するのは潜水艦ピオネール号,ソビエト連邦が最新技術の粋を集めて建造した特殊潜水艦で,海洋調査の任務を帯びてレニングラードを出航しウラジオストクを目指すのだが,行く手にはウミヘビ,オオダコ,オオガニなどの巨大生物,絶滅したはずの古代生物,その他様々な自然の驚異が待ち受ける.しかし最大の脅威はやはり同じ人間,アメリカとしか思えない某国の策略であった.
このピオネール号,平和な海洋調査目的のくせに原子砲などという物騒な名前の武器を装備している.しかし動力はなぜか原子力ではなく電池である.この本が出版されたのは1956年で世界最初の原潜ノーチラスの進水が1954年だからギリギリ間に合わなかったのであろう.だがピオネール号はソビエト連邦の最新鋭艦である.シュノケールとディーゼルで充電するなんて間抜けな事をするわけはなく,ましてワルター機関なんて物騒なものを積んでいるわけではない.スターリング・エンジンや燃料電池といった本当にものになるのかわからない技術とも無縁だ.ピオネール号の動力源は熱伝対である.熱伝対の説明は面倒なのでこの辺を参照していただくとして,要はクソ長い電線を海底深くまで降ろしてやって,海底と浅い深度との水温の温度差で発電するというものである.原子力に比べ遙かにエコでクリーンなエネルギーなのだが,その後のソビエト海軍はこの自前の技術を捨てアメリカ同様原子力を潜水艦の動力源とすることになる.これは致命的な誤りであった.なにせピオネール号はあの時代に水中速力50ノット超の高速を出す事が出来たのだ.ピオネール号の技術が継承されていれば冷戦はソビエトの勝利に終わったのは間違いあるまい.技術的な問題があったとは思えないので何か政治的な理由によりピオネール号はその時代を超えた技術もろともソビエト連邦の歴史から抹消されてしまったのであろう.僕はこの件にはゴルシコフ提督の...まあこの辺でやめておこう.

以上,「海底2万マイル」の簡単な紹介でした.いや5万だったかもしれないが,まあ2万でも5万でも同じ事だ.
えっ?ジュール・ベルヌ? あれは「海底2万リーグ」でしょ.間違えちゃだめですよ.



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