アラン 「定義集」

アラン定義集 (岩波文庫)

アラン(1868-1951).本名エミール/シャルティエ.フランスの哲学者,文筆家.フランスの高等中学,アンリ4世校の哲学教師を40年間つとめ,その門下からはアンドレ・モーロワを始め多くの知識人を輩出した.
アランの主要著作はプロポ(語録)と名付けられた五千余の掌編である.一つのプロポは,長くても文庫本で4ページに満たない.文章も平易で,抽象的なことは一切語らず,普通の人間の有り様から遠く離れることもない.常に自分の言葉で語り,他の文献への引用や言及も少ない.アランは独歩の人である.
有名なアランの言葉に,元はスタンダールの格率,「天才であろうとなかろうと毎日書くこと」がある.彼のプロボは元は新聞の連載で,まさにこの言葉の通り書かれた.言わばBloggerの祖である.彼の言葉を座右の銘とするBloggerも多い.だが実践はたやすくない.事実,この言葉のバリエーションは「書きたい時も書きたくない時も」であり,凡人はここで挫ける.
アランは闘士である.若き日にはドレフィス事件で擁護の論陣を張り,第一次世界大戦では四十六歳と兵役の対象外であるにもかかわらず,自ら志願して砲兵として従軍,負傷した.その一方で軍隊と戦争の非人道的な有様を告発する書,「マルス,あるいは裁かれた戦争」を執筆する.
また意志の人でもある.ソルボンヌ大教授の座を含む,いかなる地位も名誉も退け,生涯,一教師として勤め上げた.そして最後には七十七歳にしてかつて愛した女性と再会し結婚したのである.
アランの最も著名な著作は恐らく「幸福論」であろう.正確には「幸福に関する語録」と題された文字通り人間の幸福な生き方についての語録の選集だが,その最後は「誓うべし」という題の語録で締めくくられている.「はじめはどんなに奇妙に見えようとも,幸福になることを誓わねばならぬ」のである.「わたしたちが自分を愛してくれる人たちのためになしうる最善のことは,やはり自分が幸福になることである」のだ.アランの思想はアランの生き方そのものであり,意志薄弱な僕としては,単なる一読者であることに満足すべきであろうか?
「定義集」はアランの遺稿であり,元は語句とその簡潔な定義が記された264枚の厚紙のカード,そして定義されていない500の語句のカードである.残念ながら定義集では「幸福」は未定義のままである.ただし「希望」はこう定義されている.

希望はよりよき未来に対する信仰のようなもの(したがって,一種の意志的な信念)であって,そこから正義と善意が生まれるであろう

アランの主要著作

幸福論
集英社文庫(ISBN:4087520374),岩波文庫(ISBN:4003365623)
四季をめぐる51のプロポ
岩波文庫(ISBN:4003365631)
芸術論集 文学のプロポ
中公クラシックス(ISBN:4121600304)
プロポ
みすず書房 プロポ〈1〉ISBN:4622030861 ,プロポ〈2〉(ISBN:462203087X)

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