イラク建国(その1)

イラク建国 (中公新書)
いろいろ思うところをまとめようとしたが,この本についてはまとまらないのだ.
しょうがないので思ったことを全部書き尽くすことにする.
別に字数の制限があるわけでなし.

例えば今日のニュースにナジャフ絡みでこんな記事がある.

サドル師民兵と米軍の戦闘をめぐり、シスタニ師はサドル師側に連帯の姿勢を示していたが、シーア派聖地ナジャフなどで戦闘が長期化。周辺のクーファでは22日夜から23日にかけて、少なくとも34人が死亡した。巡礼者相手の商業活動も打撃を受けており、今回の警告は住民感情を反映したものとみられる。

この巡礼者相手の商業活動という下りだが,普通ならさらっと読み飛ばしてしまうかもしれない.だがこの本を読むと巡礼者相手の商業活動が具体的なイメージを伴ってわかってくるのである.
まずナジャフがどういうところかというと


オアシス都市ナジャフは,ネクロポリス(死者の都)であろう.ここに眠る無数シーア派信徒の遺骸は,最後の審判の日のよみがえりを信じて眠っている.

(中略)
わけてもナジャフとカルバッラーは聖地の双璧だろう.「大旅行記」の筆はナジャフで催される「よみがえりの夜」の行事にも及ぶ.この地の霊園に盲人や足萎えが全土から集まり,墓廟の上にのせられて,会衆が念唱しながら,快癒の奇跡が起きるのを待ち続ける.ナジャフには人を癒す何かがあるのだ,と信じられているのだ.
粗布に包まれた遺骸を遠方から運び込むキャラバンの列はナジャフでは見慣れた光景だった.何百年も累々とかさねてきた埋葬で墓地は立錐の余地もない.
(中略)
ナジャフは常に「沸騰するシーア」の震源となってきたのである.
(イラク建国 154-156ページ)

上に引用したようにナジャフは全くの宗教都市であり,その収入源はシーア派信者からの寄進,そして巡礼者相手の商売から成り立っているのだ.

巡礼者たちは後生を祈り,病の快癒を訴え,中には「一夜妻」を買うのが楽しみの者まで混じっている.門前のバザールは殷賑を極め,それを目当てに群がる乞食や占い師,スリたちで人口八万人の半数を占めているという
(同書 167ページ)

巡礼者相手の商業活動も打撃を受けており、今回の警告は住民感情を反映したものとみられる。がどういうものか理解できるであろう.
非生産的な人間が半分を占めているところに巡礼がやってこないんだもん.
そりゃみんな怒るわ.
イラク関連の無味乾燥なニュース記事の下に蠢いているものが浮かびあがってくる本.
それが「イラク建国」である.

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