すばらしきレムの世界

ネタがないというか、バックグラウンドが忙しいので、こんなんでお茶を濁す
講談社文庫から出ていたスタニスワフ・レムの自薦短編集である。


すばらしきレムの世界1

初期短編で内容的にはいまいち。
侵略テーマが多いのはなぜだろう。

ミスター・ジョンズ、きみは存在しているのか?

一種の身体問題を扱った作品。
元カーレーサー、ミスター・ジョンズに対して起こされた身体の返還訴訟。
というのはミスター・ジョンズは脳の一部を除いて機械の体になっており、しかも代金が未払いだったのである。彼の体の所有権は誰にあるのか?いやそれ以前に被告ミスター・ジョンズは存在しているのか?

迷路の鼠

地球に不時着した謎の宇宙船の内部にとらわれてしまった科学者二人。
タイトルの迷路の鼠はもちろん鼠の迷路学習実験のことで、主人公達は鼠よろしく宇宙船の中をさまようことになるが、そこに仕掛けられてくる宇宙人の干渉。
この干渉というのが人間そっくりのマネキンのような人形によって行われるのだが、このあたりが後のソラリスへの繋がりを感じさせる。

侵略

地球上に落下してきた謎の物体を巡るシリアスなドタバタ騒ぎ。
結末の方で謎の物体についての仮説は出てくるが、あくまで人間サイドの仮説のままで謎の物体はそんなことにはおかまいなしに存在し続けているというあたりがレムらしい。

友人

謎の空間Xから電波で語りかけてくる友人。
その存在を知った男は、友人をこの世界へ招き入れるための機械を製作するのだが...
どっちかというとホラーというかラブクラフトの世界であるな。


アルデバランからの侵略

地球侵略の先兵としてアルデバランからやってきた異星人の偵察部隊は東欧の農村地帯へと降り立った。あやうし地球。
といいたいところだが、筒井康隆の「農協月に行く」の地球侵略版みたいな話である。



すばらしきレムの世界2

1に比べるといかにもレムらしい話が多い。「ハンマー」、「リンファーテルの公式」はおすすめ

闇と黴

ヴィステリア・コスモチリカ。突然変異によってうまれた物質を食って繁殖するカビ。
秘密研究所で密かに研究されていたが、その研究所で爆発事故が起こる。
ほとんどは爆発時の炎と、軍の消去作業により消却されたのだが、わずかな胞子が風に乗って外部に漏れ出すのであった。
何が怖いといって、胞子がたどり着いた先が中年の独身男性の家なのだが、その家の内部の描写が同じ独身男性としては大いに身につまされるのであった。
教訓。部屋はきれいにしましょう。

ハンマー

亜光速宇宙飛行に送り出された宇宙飛行士とロボット。
だがその高速を持ってしても長すぎる旅の年月は人間とロボット双方の正気を蝕んでいく。
いやそもそも出発の時点からどちらも狂っていたのかもしれない。
この話の怖いポイントは、このロボットというか人工知能が作られる研究所である。
そこでは様々な機械をつなぎ合わせて人格を合成する実験をしているのだけれど、できあがる人格のほとんどは失敗作である。で、その失敗作がどうなるかというと、


「失敗だ、切れ」老人が言った。
「やめろぉぉぉぉ、やめてくれぇぇぇぇ」

こんな研究所から出てくるロボットを宇宙船に乗せるのが間違いだわ。

リンファーテルの公式

いわゆる人間原理の一つ上を行く話。
人間原理といういうやつは、宇宙というやつはどういうわけか知的存在、はっきりいえば人間を生み出すのに都合よくできているという仮説。これは弱い人間原理
さらに踏み込んで宇宙というのは人間を生みだすために創られたと臆面もなく主張するのが強い人間原理である。
しかしだ、諸君。その人間というのがさらなる超知性体を生み出すための礎に過ぎないとしたらどうであろうか?

主人公リンファーテルは研究の末、そのような超知性体を生み出す公式を発見し、公式に基づく知性体のモデル1を完成させる。
自らの知覚域を光の速さで広げていく超知性体。その超知性体の目的とは....というのはほぼ自明であろう。
この超知性体の描写がいかにもレムらしい。知覚域が光の速さで広がっていくんですぜ。ちなみに完成しなかったモデル2は存在した瞬間に宇宙の全てを認識するらしい。この話と次の「手記」が後の『ゴーレム XIV』に繋がっているのだと思う。

手記

入力と出力がくっついてしまった超知性体の話。
とうぜん彼には外部というものが存在せずひたすら瞑想というか内観を繰り返すのであった。
以上。としか書きようがない話だ。

真実

高温プラズマの実験中に偶然発見されたなぞの現象。
その現象の映像を見た生物学者はこれはプラズマの映像ではなく、水中に住むアメーバに間違いないと断言するのだが...


二人の若者

どういう話だっけ?


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