博徒の幕末維新/高橋 敏著/ちくま文庫

ISBN:4480061541
嘉永6年(1853年)甲州八代郡竹居村の無宿安五郎は流刑先の新島から脱獄した。
ともに脱獄した6名のうち半数は再び縛につき、他は歴史の闇へと消えたが、安五郎は竹居村へ舞い戻り、博徒の親方として頭角を現すことになる.
著者は安五郎の逃走経路,そして彼の半生を丹念にたどり,幕末におけるアウトロー博徒達の実像を明らかにしていく.
著者は稗史と呼んでいるが,はっきり言って裏面史である.脱獄した安五郎の容易過ぎる逃走,あるいは第三章で語られる20人からの徒党を組み関東一円を荒らしまくった無宿幸二郎のエピソードからは,幕末における治安体制がほぼ崩壊していたことが読み取れる.また安五郎の逃走を助けた者として伊豆の間宮久八という博徒が出てくる.久八は後に大場久八と呼ばれることになるが,これは久八が台場,つまり品川台場の築造の人足集めに関わったところから来た異名である.この品川台場の築造の責任者が有名な伊豆韮山代官,江川英龍であり,久八はこの韮山代官からかなりのお目こぼしを受けていたようである.このあたりは今も変わらぬ役人と土建屋,そして暴力団の関係そのままである.
もちろんこの博徒達が幸福な生涯を送れたわけではなく,関東取締役の追求を受け、金比羅山に立てこもった後自害した下総の勢力富五郎のように、大半は非業の最期を遂げた.安五郎も最後には関東取締役の手により謀殺としか言いようがないやり方で処刑されることになる.
悲惨を極めるのが第四章に出てくる黒駒勝三と水野弥三郎で,彼らは攘夷思想に染まり,勤王の志士として官軍に協力するのだが,結局官軍に利用された挙句処刑されてしまう.水野弥三郎は歴史から抹消されてしまい,黒駒勝三は後にあの清水の次郎長の敵役として祭り上げられてしまうのである.
新撰組ブームで幕末が注目されているからこそ出版の機会を得た本だとは思うが,その辺の新撰組の本よりは遙かにおもしろいのは僕が保証する.ところで黒駒勝三や水野弥三郎は伊東甲子太郎の線から新撰組にも関わりがあったらしいのだが,大河ドラマには出てくるんでしょうか?

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