マスター アンド コマンダー

検索のreferを見ていると,一帆船小説ファンとして弁明をする必要を感じて来たので一言.
「南太平洋、波瀾の追撃戦」(ASIN:4150410569,ASIN:4150410577),映画「マスター アンド コマンダー」の原作ということもあって,手に取られる方も多いと思いますし,これが帆船小説というジャンルへのファーストコンタクトという方も多いでしょう.
しかし大変不幸な出会いとしか言い様がありません.
正直,僕もパトリック・オブライエンは読むのがつらいです.特にこの巻はつらかった.
問題点としては以下のようなものがあります

  • とても重厚すぎる文体.シリーズでは大分ましな方なのですが.
  • 主要登場人物が少なすぎる.特にこの巻の場合,主要登場人物は艦長とドクター・マチュリンだけで,これで上下2巻はつらすぎます.
  • 話のほとんどが船の上だけで進む.少しくらいは上陸したりしますけど
  • 話の展開が超遅い.出航準備だけで100ページかかります.このあたりのじっくりさがジャック・オーブリーシリーズの魅力でもあるのですが,帆船小説初読者にはつらいでしょう.
  • ドンパチがほとんどない.これがアレグザンダー・ケントあたりですと,「南太平洋、波瀾の追撃戦」の上巻の五割増しくらいの厚さの本で戦闘シーンが10回はあって,登場人物の半分は死んでしまいます.これはこれでなんだかなあとは思いますし,こっちの方がリアルと言えばリアルなのですが,やはりこの手の小説に読者が望むのは派手な戦闘シーンなわけで,それがないというのもファン・サービスに欠けます.たまにはこういう本があってもいいのですが,帆船小説を初めて読む人向けではありません.
  • あんまりにもな結末.ネタばらしになるので書きませんが,地球の半分を回って追いかけてあの結末はないでしょう.

というわけであの本で帆船小説のファンが増えるとは思えません.早川が便乗して海洋冒険小説フェアとかやれば話は別ですが.

この分野に興味をお持ちになられた方には以下の本をお勧めします.

パナマの死闘/セシル・スコット・フォレスター

ISBN:4150400806
やはり南太平洋を舞台とした帆船小説ですが,こちらはいきなりパナマに到着するところから始まります.主人公ホーンブロワーは,オーブリー同様,敵艦の撃破を命じられるのですが,敵は彼が指揮するフリゲート,リディア号の2倍の砲力を持つ戦列艦ナチビダット号.ホーンブロワーは奇策で一度は敵艦の捕獲に成功するのですが...

わが指揮艦スパロー号/アレグザンダー・ケント

ISBN:4150402531
ボライソーシリーズはこの本から入るのが良いと思います.
舞台はアメリカ独立戦争の時代.主人公ボライソースループ艦スパロー号の艦長に任じられ,北アメリカ海域への出撃を命じられます.ボライソーシリーズは登場人物が皆キャラ立ちしていて,現代的でかなり読みやすいです.

ちなみに映画のほうはちゃんとドンパチがありますのでご安心下さい.

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