岩本輝雄の思い出

僕は俄かなので,岩本を見たのは2001年5月2日の仙台スタジアムでの山形戦が最初となる.正確に言うと,その前のアウェイ湘南戦が最初なのだが,平塚陸上競技場の断崖絶壁みたいなメインスタンドの上段で見たのは,僕にとっては見たうちには入らない.
この試合,僕は今やプラチナチケットと化した仙台スタジアムメインスタンドのホーム側,割りと前の方で見ていた.だからあれは後半の出来事のはずである.この日,仙台スタジアムには1万5000という当時のJ2では驚異的な数の観客が入っていた.でも後の仙台スタジアムに比べれば,ずっと静かで閑散としていた.
当時も,つい最近までもそうだが,岩本は4-4-2の左MFとしてプレイし,攻撃の起点となっていた.この時も岩本はボールを持って駆け上がって来た.当然,山形のDFの一人がインターセプトすべく接近し,二人は僕の目の前あたりで交錯するはずであったが,その直前,岩本はさらに左にシフトし,それは起きた.
何が起きたかというと実は全く覚えていない.ただ僕がすごくびっくりしたのは確かで,また「ぶおん」という音が聞こえたがたぶん幻聴だろう.僕が我に返った時には,仙台のゴールが決まっていた.逆サイドにいた財前が決めたのだ.ピッチ上の財前がヒーローになったのはもちろんだが,岩本もピッチサイドでベンチにいた人々から祝福を受けた.財前をアシストしたのは岩本だった.岩本の逆サイドへの強烈なクロスが得点に結びついたのだ.
情けないことに,それは目の前で起きたのに,僕の記憶は空白のままだ.だが,ぼっけと見ている観客の度肝を抜くようなタイミングでクロスを上げられなければ,プロのDF陣から点を奪うことは出来ない.相手のDFを引き付けながら不意にクロスを上げるのは,岩本が得意とする手で,湘南戦でもこの手で得点を挙げていた.そして11ヶ月後,鹿島アントラーズの牙城鹿島スタジアムで,岩本は同じようにクロスを上げ,ゴール裏を埋め尽くした鹿島サポーターの眼前での,マルコスの先制点を演出することになる.
岩本が僕の目の前で活躍したのは,山形戦のアシストが最初で最後だ.後は逆サイドとか,あっちの方のコーナーとか.2番目に近かったのは2002年開幕戦の先制点のフリーキックだが,これも逆サイドだ.2003年アウェイ名古屋戦の先制点の時は名古屋ゴールはあっち側だ.後半僕の目の前で活躍してくれればあの試合は勝てたのに.
この名古屋戦の先制点が,僕が生で見た岩本の最後の活躍で,2003年,残留のかかった最終戦.いつもとは違い右MFとして起用された岩本は,大分MF有村のマークを外すという致命的なミスを犯し,これが大分の先制点,さらには仙台の降格へと繋がった.岩本はベルデニック監督の怒りを買い,前半半ばでベンチに引っ込んだ.僕はアウェイゴール裏にいたので,敵のゴールは僕の目の前で決まった.大分スタジアムは陸上兼用なので,僕の居たスタンド上段からは,ゴールまでかなり距離があったのが,不幸中の幸いだった.
とはいえ岩本を恨む気は全くない.(ベルデニックに言いたいことはあるが)正直,名古屋で定位置を掴むのは少し厳しいと思うけど,頑張ってJ1で活躍してほしい.とにかくシーズン途中でJ2に移籍して,仙台スタジアムのホーム側ゴールにフリーキックを叩き込むような真似だけは絶対にしないでください.お願いします.

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